Aeromonasはグラム陰性桿菌で,食中毒起因菌に指定されているが,易感染性宿主では,予後不良の劇症型感染症例も数多く報告されている.申請者は,菌の定着・重症化の引き金になっていると考えられるbiofilmに注目し,本菌による劇症型感染症の予防法や治療戦略を確立したいと考えている.本申請研究は, biofilm形成とそれに関わる分子(外膜小胞(OMVs))に着目した研究である. 前年度の研究により,biofilmのマトリックス(ECM)成分中に多く含まれるOMVsが本菌のbiofilm形成を促進することを明らかにした.最終年度では,所属する研究室が保有する菌株で,biofilm形成能が異なる近縁の3菌株をピックアップし,種々の菌株から精製したOMVsを異なる菌株に作用させ,より詳細なOMVsの作用メカニズムの解析を行った.その結果, OMVsによるbiofilm形成促進作用は,OMVsの成分にのみ依存するのではなく,菌体の性質も大きく影響することが明らかになった.その後の検討により,OMVsの作用に影響を与える菌体因子を見出した. 次に,biofilmに起因する感染に着目し,biofilmから精製したOMVsを感受性細胞のRaw264.7細胞に処理し,細胞毒性を解析した.その結果,OMVsはエンドサイトーシスされ,細胞毒性を引き起こすことが明らかになった.これまでの報告では,浮遊菌から遊離されるOMVsの作用に関する知見が多かった.しかし,本研究で得られた知見はbiofilm由来のOMVsも標的となる細胞に対して毒性を発揮し,感染症の悪化に寄与している可能性を示唆している.今後,本研究をさらに進めることによって本菌biofilmの病原性への影響を分子レベルで解明する予定である.
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