研究課題/領域番号 |
20K16264
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
吉田 尚史 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任助教 (90724774)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 阻害抗体 / ITC / クライオ電子顕微鏡解析 / RNAポリメラーゼ |
研究実績の概要 |
近年、新型インフルエンザウイルスによるパンデミックが懸念されており、さらに薬剤耐性ウイルスの出現についても報告されていることから 、新たな抗インフルエンザ薬の開発が急務とされている。インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼは、ウイルス増殖の中心的な役割を担っており、他のウイルスタンパク質と比べ変異が起こりにくいという特徴から理想的な薬剤ターゲットとして注目されてきた。これまでに、インフルエンザ RNAポリメラーゼに特異的に結合し、細胞内でウイルス増殖を阻害するモノクローナル抗体の取得に成功した。しかし、開発した抗体がどのよ うにRNAポリメラーゼに結合し、ウイルス増殖を阻害するのかは不明である。そこで、阻害抗体から低分子医薬への展開に向けて、インフルエ ンザRNAポリメラーゼと阻害抗体との複合体構造解析を行い、その結合様式やウイルス増殖阻害の作用機序を明らかにすることを目的として研究を行っている。 これまでに、インフルエンザRNAポリメラーゼと阻害抗体の複合体試料を調製し、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を試みた。その結果、低分解能ではあるものの複合体構造の解析に成功し、阻害抗体の結合部位を同定することができた。今後、インフルエンザRNAポリメラーゼと阻害抗体の結合様式を詳細に調べていくため、複合体試料について調製方法の検討を実施し、クライオ電子顕微鏡解析を用いて高分解能での構造決定を行いたいと考えている。また、立体構造解析と併行して、インフルエンザRNAポリメラーゼと阻害抗体に関して等温滴定型カロリーメータ(ITC)による相互作用解析も進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昆虫細胞-バキュロウイルス発現系を用いてインフルエンザRNAポリメラーゼの試料調製を行なった。その結果、これまでよりも安定なタンパク質をミリグラムオーダーで調製することに成功した。今後、最適化した試料について、再度クライオ電子顕微鏡によるデータ収集を行っていく予定である。 また、様々な亜種のインフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼについてタンパク質調製を行い、阻害抗体との相互作用解析を実施した。その結果、季節性のH1N1型のインフルエンザRNAポリメラーゼだけではなく、強毒性のH5N1型やH7N9型のインフルエンザRNAポリメラーゼに対しても、阻害抗体は高い親和性で結合することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、インフルエンザRNAポリメラーゼと阻害抗体の複合体を高分解能で解析するために、ハイエンドなクライオ電子顕微鏡を用いてデータ収集を行う予定である。また、これまでの予備的な実験結果からタンパク質安定化剤の添加が効果的であることがわかっているため、それらを加えた上での解析も進めていく予定である。さらに、抗体のウイルス増殖を阻害するメカニズムを明らかにするために、ITCや分析超遠心(AUC)による相互作用解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画当初では、細胞培養実験の効率化や簡便化を図るために自動セルカウンターの購入を予定していたが、研究施設によって新しくセルカウンター導入されたため、購入を取り止めた。今後、タンパク質調製のための試薬や細胞培養用の培地、RNA合成費用などが主な使用用途となるが、必要に応じて細胞培養用のインキュベーターや振盪培養器の購入も検討していく予定である。
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