近年、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生し、世界的に甚大な被害を及ぼしている。人類と感染症との歴史は長く、その中でもインフルエンザはヒトにとって身近な感染症であるが、これまで複数回のパンデミックが発生していることから、今後インフルエンザウイルスによる世界的大流行が懸念されている。タミフルをはじめとする既存の抗ウイルス薬は、ウイルスタンパク質の1つであるノイラミニダーゼをターゲットとしているが、ノイラミニダーゼは頻繁に変異が生じるため、薬剤耐性ウイルスの出現が問題視されている。それに対し、インフルエンザRNAポリメラーゼは変異の度合いが極端に低いため、理想的な薬剤ターゲットとして注目されてきた。本研究では、これまでにインフルエンザRNAポリメラーゼに対する阻害抗体の取得に成功しており、その抗体がウイルス増殖を阻害する詳細な作用機構を明らかにするため、インフルエンザRNAポリメラーゼと抗体の立体構造解析および相互作用解析を行った。 前年度に引き続き、インフルエンザRNAポリメラーゼと阻害抗体の試料を調製し、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析とITCによる相互作用解析を実施した。さらに、解析した立体構造から阻害抗体の結合部位を特定し、抗体の阻害機構についても考察した。また、分析超遠心やゲル濾過クロマトグラフィーを用いて、阻害抗体がインフルエンザRNAポリメラーゼとウイルスRNAの結合に与える影響について調べた。
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