研究課題/領域番号 |
20K16267
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
大橋 啓史 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 研究員 (40866761)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | HCV / JFH1 / J6/JFH1 / ウイルス伝播 |
研究実績の概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)は非感染細胞へと自身を伝播する際にcell freeおよび cell-to-cellの2経路を利用する。Cell free 経路は非感染者へのHCVの初感染に、cell-to-cell経路は免疫回避および肝臓内における局所的感染拡大にそれぞれ利用され、HCVが慢性感染を成立・維持させるためにに重要であると考えられている。2つの経路それぞれの分子機構を解析する研究は広く進められている一方で、細胞内の感染性子孫HCV粒子がどちらの経路を選択して伝播するかのバランスを制御する分子機構は明らかではない。申請者は、まずウイルス側因子による伝播制御機構を解析するため、代表的な2つのHCV株である JFH1とJ6/JFH1におけるウイルス産生とその伝播を比較しそれぞれの株が有するウイルス伝播戦略の解析に取り組んでいる。これら2つの株のHCVを感染させたのち、感染細胞数、ウイルスRNA複製量、細胞外へのウイルスRNA放出量をそれぞれ継時的に定量した。得られた実験データをもとにウイルス生活環を数学的に表した方程式を用いて解析した。2株間で感染細胞内でのウイルスRNAの増幅には顕著な差がなかった一方で、J6/JFH1株の方が JFH1株よりも2.7倍ウイルス粒子放出能が高いことが示唆された。このことから、J6/JFH1株は子孫ウイルス粒子の放出と新規感染によるウイルス伝播効率を最大化させているのに対しJFH1株は感染細胞内でのウイルスRNA増幅量を最大化させることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は精力的に研究に取り組み、代表的な2つのHCV株である JFH1とJ6/JFH1におけるウイルス産生とその伝播戦略の違いを明らかとした。これまで、HCVにおける株間での感染拡大効率の違いは経験的に知られているのみである。今回の結果はウイルス生活環における、ウイルス侵入、翻訳とゲノムRNA複製、感染性粒子放出の各段階の効率がウイルス株ごとにどのように異なるかを明らかにした点で重要である。これにより、伝播戦略が異なるウイルス株を用いることでウイルス側因子による伝播経路選択機構の解析が可能であると期待される。すなわち、次年度以降の研究に有用な知見及び材料を得た点で順調に進展したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果より、2つのHCV株 JFH1とJ6/JFH1における感染性ウイルス放出能とその伝播戦略の違いを明らかとした。次年度ではこれらの株でのウイルス伝播制御における細胞内脂肪滴産生動態の寄与を明らかにすることを目指す。まず、脂肪滴の産生を芳香族炭化水素受容体(AhR)活性化剤もしくは阻害剤により変化させたHuh-7細胞にJFH1もしくはJ6/JFH1株のRNAを遺伝子導入した後、継時的に感染細胞数を定量することで各株におけるcell free、cell-to-cellそれぞれの経路に依存したウイルス伝播を評価する。また、脂肪滴の産生を低下させた細胞内にて産生された感染性子孫HCV粒子を抽出し、ウイルス粒子と相互作用する宿主因子を解析することで、脂肪滴の動態に依存してcell freeもしくはcell-to-cell感染能の維持に寄与する因子を評価する。 これらによって、HCVのcell freeおよびcell-to-cell感染における細胞内脂肪滴動態の役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究結果をうけて、購入を予定していた核酸抽出用キットなどの購入量が少なく済んだため。また、COVID-19蔓延の影響により国際および国内学会が中止となり参加費、旅費が不要であった。
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