研究課題/領域番号 |
20K16273
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
矢島 玲奈 群馬大学, 医学部附属病院, 助教 (10431701)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 疲弊化CD8T細胞 / 免疫チェックポイント分子 / 腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
本研究では、我々が独自に確立した抗原特異的疲弊化CD8T細胞を誘導するモデルを用いて、抗PD-1抗体治療を行い、抗原特異的CD8T細胞に耐性化を誘導し、その耐性メカニズムの解析を行った。 OVA257-264特異的T細胞レセプタートランスジェニックマウスであるOT-Iマウス(Ly5.1+)の脾臓からナイーブCD8T細胞を単離しC57BL/6マウス(Ly5.2)に移入後、翌日卵白アルブミン産生EL-4細胞(EG.7)を皮下接種した。腫瘍接種後、2週目でTIL、リンパ節、脾臓細胞におけるOT-I細胞のPD-1,CTLA-4、LAG-3、TIM-3、TIGITの発現をフローサイトメーターで解析すると、TILではPD-1がほぼすべての細胞で誘導されていたが、その他の免疫チェックポイント分子は、一部の細胞のみに発現していた(LAG-3 30%、TIGHIT 60%、TIM-3 40%、CTLA-4 30%)。リンパ節および脾臓でもPD-1はすべて細胞で発現していたが、他の免疫チェックポイント分子は一部の細胞のみで、その発現頻度はTILより低かった。これらのことから誘導されるOT-I細胞は、免疫チェックポイント分子の発現がヘテロな細胞集団であることが明らかとなった。 抗PD-1抗体による治療モデルの確立のため投与時期を検討した。腫瘍接種7日目または14日目に抗PD-1抗体またはコントロール抗体をそれぞれ投与し、腫瘍増殖抑制効果と抗原特異的CD8T細胞の増加を検討すると、腫瘍接種7日目の早期では抗腫瘍効果がみられたが、14日目では十分な抗腫瘍効果は得られなかった。誘導されるOT-I細胞の頻度は、PD-1抗体投与群では7日目、14日目共にコントロール抗体投与群より多くのOT-I細胞が誘導され、14日目では耐性が誘導されている可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究において、OT-I細胞における各免疫チェックポイント分子(PD-1,CTLA-4,LAD-3,TIM-3,TIGIT)の経時的変化を解析し、その細胞における免疫チェックポイント分子の発現パターンが異なりヘテロな細胞集団であることが明らかとなった。さらにこのモデルで抗PD-1抗体を投与し抗腫瘍効果が得られ、投与するタイミングで抗腫瘍効果が異なることも明らかとなり耐性となる時期も明らかとなった。以上より、次年度はこの成果をもとに更なる研究がすすめられるので、全体を通して当初の研究計画に沿って進行できているため「概ね順調に進展している」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、このモデルで腫瘍接種7日目から抗PD-1抗体を投与し腫瘍抑制効果を確認し、週一回治療を継続し、腫瘍が再増大したポイントで、OT-I細胞のCTLA-4、LAG-3、TIM-3、TIGITの発現を検討し耐性化に関与しているか解析する。耐性に関与する既知の免疫チェックポイント分子が同定できれば、それをさらにそれブロックする抗体を投与することにより耐性化を克服できるか検討する。 同様の実験で抗PD-1抗体投与にて耐性前後の疲弊化OT-I細胞をそれぞれセルソーターで単離し遺伝子発現プロファイルの変化をマイクロアレーで比較検討する。耐性化した疲弊化OT-I細胞で発現が上昇した遺伝子を調べ耐性化のメカニズムを探る。 さらに抗PD-1抗体治療後に耐性化を起こした疲弊化OT-I細胞を、アジュバントと一緒にラットに皮下投与で免疫し、脾臓細胞を採取してミエローマ細胞株と融合させハイブリドーマを作成する。ハイブリドーマの培養上清中の抗体を、耐性化OT-I細胞と抗原提示細胞およびOVA257-264ペプチドで培養し、細胞増殖活性またはIFN-γ産生能を検討する。再活性化したWellのハイブリドーマをクローニングする。さらにそのモノクローナル抗体を精製し、その抗体が認識する蛋白を同定して、耐性克服の新規免疫チェックポイント分子となるか解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
マウスに投与する抗PD-1抗体の量が想定より少ない量で決定できたので使用額が少なくなり、次年度使用額が生じた。ただし次年度、抗LAG-3抗体、抗TIM-3抗体、抗TIGIHT抗体、抗CTLA-4抗体など多くの抗体をマウス投与用に必要であり次年度使用が必要となり、翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画に関しては、研究計画全体のスケジュールと内容が概ね順調に進展している為、予定通りの使用計画とした。
|