研究課題/領域番号 |
20K16279
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川上 竜司 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 特定助教 (70869114)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 免疫寛容 / 制御性T細胞 |
研究実績の概要 |
胸腺Treg分化過程でのTreg-typeエピゲノム形成と、そのメカニズムを探索するため、ATAC-seqによりオープンクロマチン領域解析を実施した。CD24陽性細胞にTCR刺激、IL-2刺激をそれぞれ、あるいは組み合わせて行った場合、TCR刺激のみでもFoxp3誘導やTreg-エピゲノム形成が促進されるが、IL-2によりさらに相乗的に促進されることが分かった。一方で、IL-2のみではFoxp3誘導やTreg-エピゲノム形成は促進されなかったことから、胸腺Tregエピゲノム形成にはTCR刺激が主要な役割を果たすことが示唆された。以上の検討の一部は、Elsevier社の学術誌 Immunityに筆頭著者として発表した(Immunity 2021)。 胸腺におけるTreg-typeエピゲノムをもつFoxp3陽性制御性T細胞 (regulatory T cell; Treg) の分化機構をさらに詳細に探索すべく、今年度は以下の検討を行った。前年度までの検討で、胸腺内のCD4陽性T細胞は当初Treg分化能を持つが、T細胞の成熟に伴い徐々にTreg分化能を減弱し、ヘルパーT細胞分化能を高めることが示唆されていた。フローサイトメトリーによる解析により、CD24, Qa-2, CD73等の表面マーカーで、Treg分化能が高い集団を濃縮することが可能であることも明らかとした。胸腺Treg分化能がこの集団で高いメカニズムを明らかとするため、Infinity flow (Becht, Sci Advances 2021)による機械学習アプローチによる表面マーカーに基づくスクリーニングを実施し、胸腺Treg分化能をもつ胸腺未熟CD4シングルポジティブ細胞は、さらに数個の亜集団に分類できることを発見した。また、シグナル伝達系の解析により、胸腺特異的にTreg分化を促すシグナル伝達経路を複数同定した。これらのTreg分化能力がin vivoでも発揮されることを確認するため、T細胞欠損マウス等の免疫不全マウスに新規Treg前駆細胞を移入し、Treg-typeエピゲノムを成立させたTregがin vivoでも分化しうることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画の手順にしたがって研究を進め、実験系に大きな瑕疵はなく、いずれもコアなデータは再現良く実験が実施できている。本研究の基盤的なデータ収集を達成し、有望な仮説を導出することができた。 T細胞分化に関与する遺伝子やTCRトランスジェニックマウス、Foxp3-hCD2レポータマウス等、実験に使用するマウスの飼育と遺伝子改変体の掛け合わせを数世代すすめ、コロニーの拡大を行った。 T細胞の分化に関与するシグナル伝達系やアポトーシス・細胞増殖関連因子を探索し、胸腺制御性T細胞分化の鍵となるイベントの同定に向け複数の候補を得ることができたことから、これらを詳細に一つずつ調べることで制御性T細胞分化メカニズムの理解を前身させることができると考える。 一方で、新型コロナウイルス対応により業務が逼迫したため、実験計画の進行が遅延した。そのため、当初実施する予定であった、胸腺T細胞のTreg分化ポテンシャルとTreg-typeエピゲノム形成との関わりの解析は、今年度は予備データを得るにとどまり、次年度に集中的に実施する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) 前述のTreg分化能の高い/低い胸腺内CD4T細胞分画において、TCR刺激、IL-2刺激をそれぞれ、あるいは組み合わせて行った場合、あるいはin vivoにtransferした後の、Treg-typeエピゲノム形成に及ぼす影響をATAC-seqによるオープンクロマチン解析等で評価する。(前年度から継続、in vivoの検討項目を追加) (2) 胸腺Treg分化にTCR刺激が重要であることを確認したので、TCR刺激の強度がGFP(緑色蛍光タンパク質)発現に反映される、Nr4a1-GFPマウスとFoxp3-hCD2レポータマウスを作成した。ここから胸腺内で様々な強度でTCR刺激を受けた細胞をセルソータで分取し、それぞれのTreg分化ポテンシャルをin vitroで検証する。 (3) これらの解析で得られた胸腺Treg分化に重要な遺伝子の候補について、in vivoの遺伝子ノックアウトにより解析する。CD4陽性T細胞特異的Cas9KIマウスとガイドRNA発現レトロウイルスベクターを用いて、遺伝子ノックアウト処置をした造血幹細胞移植により、生体内で胸腺Treg分化に重要な遺伝子の同定を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主要な理由は、新型コロナに関する対応業務により、実験の回数が減少したため消耗品の使用量が減少したため、また国際学会の中止が相次ぎ、旅費の支出が減少したためである。また、消耗品の効率的な使用のための検討を別に実施し、実験ボリュームのサイズダウンに成功し消耗品の使用が減少したことや、次世代シークエンス実験を諸外国からアップロードされたパブリックデータで代用可能なものが利用可能になったこともコスト削減に寄与した。 そこで生じた余剰の経費を利用し、次年度には当初計画にはなかった、さらに詳細にメカニズムを解析するための高額なシングルセルゲノミクス等を実施可能であると考え、検討している。
|