研究課題/領域番号 |
20K16280
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
榛葉 旭恒 京都大学, 医学研究科, 助教 (30812242)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | レニン / ヘルパーT細胞 / 炎症性腸疾患 |
研究実績の概要 |
レニンはアンジオテンシンを代謝することで血圧の調整に関与するが、その受容体は免疫系細胞にも幅広く発現している。レニン受容体がリンパ球による免疫を制御する機構を調べるため、T細胞特異的プロレニン受容体(PRR)遺伝子破壊マウス(CD4Cre-PRRcKOマウス)や、リンパ球特異的PRR遺伝子破壊マウス(IL7RCre-PRRcKOマウス)を解析した。その結果、CD4Cre-PRRcKOマウスの胸腺におけるT細胞の発達や、末梢リンパ組織におけるT細胞の生存能が障害されており、T細胞数がコントロールマウスに比べて著減した。また、腸管粘膜固有層においてもインターロイキン17産生T細胞の数が減少する傾向にあった。IL7RCre-PRRcKOマウスを解析した結果、B細胞やNK細胞がコントロールマウスの半数ほどに減少していた。また他の自然リンパ球であるILC2においては骨髄でその細胞数が著減した。また、ILC3は多くが腸管に局在しており、腸管の感染防御やパイエル板や三次リンパ組織の形成に大きく寄与する。PRR遺伝子欠損マウスの腸管においてはパイエル板がほぼ消失したことから、遺伝子欠損におけるgILC3の細胞数の減少や機能の減退が推察される。このように、PRRが多様なリンパ球の発生を促進することが明らかになった。 一方で、腸管においてインターフェロンγを産生する1型ヘルパーT細胞(Th1細胞)の細胞数がPRR欠損マウスで増加することを発見した。また、培養実験においてプロレニンを添加すると、ナイーブT細胞からTh1細胞への分化が抑制されることがわかった。この結果から、レニンはTh1細胞の発生を抑制することが示唆された。 以上のように、レニンは様々なリンパ球の発生や機能を促進するが、Th1細胞などサブセットによっては免疫抑制作用も併せ持つことを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、レニン受容体がT細胞や自然リンパ球の発生や機能を促進する作用をもつことを、PRR遺伝子改変マウスを解析することで明らかにすることができた。これは本研究を始めるにあたり立てた仮説である「レニンがTh17細胞の分化、維持、機能を促進して大腸炎の病態に寄与する」という考えを大いに支持するものであるため、ほぼ満足できる達成度と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はプロレニン受容体がリンパ球の分化や維持、機能を促進する詳細な機構を調べるために、健常状態におけるTh17細胞や自然リンパ球、大腸炎時の腸管におけるヘルパーT細胞をサンプルとしてRNAシークエンスを用いた網羅的な遺伝子発現解析を実施することで、ヘルパーT細胞におけるPRRシグナルが影響し得る遺伝子の探索を行う。遺伝子が同定された際には、標的遺伝子発現をPRRのシグナルがどのように制御しているかを解析するために、PRRが誘導するシグナル伝達経路を同定する必要がある。そのため、培養したT細胞をプロレニンで刺激した際にリン酸化されるシグナル伝達因子を網羅的に探索する。加えて、プロレニン受容体の細胞内領域に変異を導入し、シグナル伝達が障害されるか確かめる。さらにその標的遺伝子自体がTh17細胞の分化や維持、機能を促進するか確かめるために、標的遺伝子破壊マウスを用いて解析を進める予定である。健常時または病態時においてプロレニンを投与した際に、標的遺伝子の発現上昇を介してプロレニンがTh17細胞の機能を促進するかを確かめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加のための旅費を計上する予定であったが、新型コロナウイルス蔓延防止の観点から複数の学会が中止となり、次年度使用額が生じた。
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