研究課題/領域番号 |
20K16287
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
宮澤 龍一郎 徳島大学, 先端酵素学研究所, 助教 (70848374)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Aire / 樹状細胞 |
研究実績の概要 |
AIRE は自己寛容(self tolerance)の成立機構にかかわる胸腺上皮細胞に発現する転写調節因子であり、その機能異常によって内分泌臓器を標的とする自己免疫疾患を発症する。近年、AIREが樹状細胞(DC)においても発現することが報告されたが、その機能は不明である。末梢のリンパ節は病原体の制御を担う重要な免疫機関であり、一方、中枢の胸腺はT細胞の成熟に重要な役割を担う。これら2つの器官は大きく異なる機能を担うが、共通してAIREを発現するDCが局在する。従って、これらの器官におけるAIRE発現DCの機能を比較検討することは、AIREがDCで発現する意義の解明につながると考えられる。 本研究では、DCにおけるAIREの機能を解析するため、AIREレポーターマウス(AGFマウス)をモデルに研究を行う。AGFマウスでは、AGFアリルをヘテロで持つ個体(AGF WT/KI)は、内在性のAIREを認め、GFPの蛍光によりAIRE発現細胞を検出できる。一方、AGFアリルをホモで持つ個体(AGF KI/KI)では、内在性AIREの発現を欠損するが、GFPの蛍光によりAIRE発現運命にあった細胞を検出することができる。つまり、本モデルを用いることで、AIRE発現DCの機能を明らかにすると共に、AIRE発現DCにおけるAIRE欠損による影響を直接的に解析することが可能である。 また、AIRE 欠損症ではCandida albicans による真菌症がほぼ必発であり、AIRE 欠損症では自己免疫病態に加えてカンジダに対する易感染性を認めるが、そのメカニズムは不明である。そこで本年度は、末梢におけるAIRE発現DCと、AIRE欠損症で認められるカンジダ感染に着目し、骨髄細胞より誘導したAIRE発現DCを用いて、カンジダ感染に重要なTh1/17誘導能の解析を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AIRE発現DCの特徴を明らかにするため、AIRE発現DCにおける表面分子の探索を実施し、MHC-2を始め抗原提示に関与する分子や、Th17誘導に関連するMincleの発現が高いことが明らかになった。一方、AIRE欠損状態になるAGF KI/KIマウスにおいても、それらの発現レベルに大きな変化は認められなかった。 また、AIRE発現DCの局在を全身リンパ節で比較したところ、鼠径や腋窩リンパ節と比べ、頸部リンパ節に多く局在することが明らかになった。頸部リンパ節は、口腔免疫における所属リンパ節であり、AIRE欠損症で認められる口腔カンジダ症との関係性が示唆される。 更に、AIRE発現DC自体の機能を明らかにするため、カンジダ感染の制御に重要なTh17に着目し、CD4+T細胞の分化におけるAIRE発現DC機能解析を行なった。つまり、骨髄細胞から誘導したAIRE発現DCをセルソーターで回収し、予めカンジダ抗原で感作を行なった個体のCD4+T細胞と、カンジダ抗原存在下で共培養を行ない、Th1/17誘導の比較を行なった。その結果、AIRE発現DCはCD4+T細胞に、Th1よりもTh17へ分化を誘導する能力が強いことが明らかになった。一方、AGF KI/KIマウス由来骨髄AIRE+DCを用いたサンプルでは、AGF +/KIマウスに比べややTh17の誘導が低い傾向が認められた。 本年度の研究を通して、AIRE発現DCがカンジダ感染制御に重要なTh17を誘導すること、口腔所属の頸部リンパ節にAIRE発現DCが多く局在することが明らかになった。これらの結果は、末梢におけるAIRE発現DCの機能や、AIRE欠損症における口腔カンジダ症との関係を考える上で重要な情報になると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によりAIRE発現DCの機能の一部が、In vitroの実験により明らかになったが、実際のAIRE欠損症で生じる口腔カンジダ症と照らし合わせ、In vivoの実験により、AIRE発現DCの機能や、AIRE欠損による影響を明らかにする必要がある。 また、AIRE発現DCの機能を幅広く推察し、AIRE欠損による影響を明らかにするため、AGF +/KI とAGF KI/KIマウスのAIRE発現DCをそれぞれ回収し、RNA-seqによる網羅的な遺伝子発現変動を解析する。更に、胸腺上皮細胞においてAIREは、自己抗原の発現に関与するが、DCにおける自己抗原の発現は不明である。従って、AIRE発現DCにおける自己抗原遺伝子の発現解析を実施し、DCにおいてもAIREが自己抗原の発現に関与するか明らかにする。 更に、今後の研究ではT細胞成熟の場である胸腺(中枢)におけるAIRE発現DCの機能解析を行う。胸腺におけるDCの機能として制御性T細胞の誘導が挙げられる。従って、胸腺器官培養(RTOC)により、一般的なDCに対して、AIRE発現DCがTreg誘導においてどのような機能を持つか、また、AIRE欠損状態ではTreg誘導にどのような影響が生じるか解析を行う。 本解析を通し、胸腺(中枢)とリンパ節(末梢)におけるAIRE発現DCの機能を比較することで、DCにおいてAIREが発現する意義を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、PCRに関連する試薬をはじめ研究試薬類の製造が滞り、一部を購入することができなかった。従って、当該の研究試薬の購入を次年度以降に見送ったため、次年度使用額が生じた。 翌年度分として請求した研究費と合わせて、RNA-seq解析に使用する予定である。
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