AIRE遺伝子は、T細胞成熟の場である胸腺、特に胸腺髄質上皮細胞に強く発現する転写調節因子であり、AIRE遺伝子欠損状態では組織特異的自己抗原(Tissue-restricted antigens:TRAs)の発現が著しく低下し、自己反応性T細胞の出現による自己免疫疾患を発症する。従って、AIREは免疫機構の成立において非常に重要な分子として位置付けられるが、その機能の全容解明には至っていない。特に、樹状細胞(dendritic cell: DC)における AIREの機能はこれまでほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、高感度AIREレポーターマウスを用いて、AIREの新たな側面を解明するため、免疫学的な手法やバイオインフォマティクスによる解析を実施した。 まず、AIRE発現運命にあるDCの各リンパ節及び胸腺における分布を、AIRE発現個体とAIRE欠損状態の個体で比較を行ったところ、AIRE発現DCの分布に大きな違いを認めなかった。更に、AIRE発現個体とAIRE欠損状態の個体からAIRE発現運命にあるDCを回収し、Th1/17誘導におけるAIRE発現DCの機能を In vitroで解析を実施した。その結果、AIRE欠損状態でややTh17誘導が低下するものの、統計学的な有意さは認められなかった。また、 AIRE発現運命にあるDCの遺伝子発現を、 AIRE発現個体とAIRE欠損状態の個体でRNA-seqにより比較を行ったところ、胸腺髄質上皮細胞のAIRE欠損による変化に比べ、発現遺伝子に大きな変化を認めず、TRAsの発現低下も認めなかった。 以上の研究により、AIREはDCにおいて胸腺髄質上皮細胞とは異なる機能を持ち、その機能は胸腺に比較すると限定的であることを示唆する。
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