研究課題
プロテアソームは不要なタンパク質、正しく合成されなかったタンパク質を分解、除去することで細胞内環境の恒常性維持に寄与するタンパク質複合体である。プロテアソームは複数のサブユニットから構成されるが、このサブユニット遺伝子の変異により凍瘡様皮膚炎と脂肪萎縮を主徴とする自己炎症性疾患、プロテアソーム関連自己炎症性症候群(Proteasome-associated autoinflammatory syndrome, PRAAS)が生じる。PRAASは現在までに適切なマウスモデルがなく、病態の詳細は不明であり、また治療法も確立されていない。本申請者は、患者より同定された新規のプロテアソームサブユニット変異を導入したマウスを作製し、そのヘテロ変異マウスが、T細胞、B細胞の減少をはじめとする、患者の所見と共通する多彩な表現型を示すことを見出した。本研究では、このヘテロ変異マウスの解析、特に抗体産生細胞の分化障害に関しての解析を進め、プロテアソームがどのように免疫担当細胞の分化に関与するのかを明らかにする。初年度では、ヘテロ変異マウスにおける脾臓B細胞の表現型に焦点を置き解析を進めた。血中の免疫グロブリンはIgMをはじめすべてのアイソタイプにおいて低値を示し、抗原に対する免疫応答解析にても、抗原特異的免疫グロブリンの産生はほとんど認められなかった。また、ヘテロ変異マウスの脾臓よりB細胞を精製し3H-チミジンの取り込みによってB細胞の増殖能を検討したところ、野生型と比較して増殖能の著明な減少は認められなかった。またヘテロ変異マウス骨髄を用いてB細胞の前駆細胞を検討したところ、骨髄の前駆細胞においても著明な減少は認められなかった。以上の結果から、B細胞の発生過程、増殖には顕著な異常がないが、抗体産生細胞への分化過程での異常が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
概ね順調に進んでいる。初年度ではB細胞を中心としたリンパ球の表現型解析を進めた。脾臓B細胞は、加齢に伴い、割合の減少がみられ、血中のすべてのアイソタイプの免疫グロブリンが低値を示したので、抗原特異的な免疫応答の解析を行い、それも障害されていることを明らかにした。一方で、リポ多糖(Lipopolysaccharide, LPS)刺激による増殖能、骨髄からの分化過程はほぼ正常であることを見出した。このように一連の結果からB細胞から抗体産生細胞へ分化する過程で異常が生じている可能性が示唆されてきている。
B細胞が脾臓、リンパ節などでどのように活性化され、分布しているのか、免疫組織学的解析を行う。また、純化したB細胞を用いて、増殖、抗体産生細胞への分化過程をさらに詳細に解析する。細胞集団あるいは一細胞レベルでRNA解析を行い、どのような遺伝子群が発現されているのか、どのような分化段階で異常が生じているのか明らかにする。発現パターンが変化した遺伝子群が得られれば、その遺伝子に応じた機能的解析、タンパク質解析を進め、プロテアソーム異常により生じた破綻の分子基盤を解明していく。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)
British Journal of Cancer
巻: 122 ページ: 1185~1193
10.1038/s41416-020-0757-2