研究課題/領域番号 |
20K16292
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
伊藤 新 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60528321)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | GLP-1受容体作動薬 / T細胞 / アネルギー |
研究実績の概要 |
本研究は、2型糖尿病での炎症の主座は肝内免疫担当細胞であり、GLP-1受容体作動薬が肝内免疫担当細胞、特にT細胞にアネルギーを誘導し過度の炎症起点が制御され NAFLDおよび全身の糖脂質代謝異常が是正されるとの仮説の検証を目的としている。 まず令和2年度においては、in vitroにおいてGLP-1受容体作動薬によってT細胞アネルギーが誘導されるか、について検討を行った。 マウス脾臓からCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞を磁気ビーズを用いて抽出し、細胞増殖モニタリング試薬でラベルし、培養プレート上でGLP-1受容体作動薬の存在下で抗CD3および抗CD28抗体で刺激し培養した。フローサイトメトリーを用いて、GLP-1受容体作動薬非存在下で刺激したT細胞と比べ、GLP-1受容体作動薬の用量依存性に細胞増殖が低下しており、細胞死の誘導によって得られた結果でないことも確認した。そして、これらの細胞培養の上清に分泌されたサイトカイン濃度をELISA法で測定したところ、GLP-1受容体作動薬存在下で各種サイトカイン濃度が低下しており、T細胞からのサイトカイン分泌が低下していた。 これら3点の検証結果は、GLP-1受容体作動薬が、in vitroの系において、T細胞アネルギーの表現型を誘導するとの仮説に合致する結果であった。いまだその機能が明らかとなっていない、T細胞におけるGLP-1シグナリングの機能が、T細胞アネルギーの誘導である可能性を示唆する重要な検討結果と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度はin vitroにおけるGLP-1受容体作動薬によるT細胞アネルギーの表現型を示したが、当初はこれらのT細胞における遺伝子発現の変化についても検討する予定であったが、COVID-19蔓延による影響で一時期所属施設全体で研究の遂行が困難な時期があったため、本実験は延期せざるを得なくなった。 しかし、T細胞アネルギーの表現型は確認できており、また遺伝子発現を検討するサンプルについても抽出され凍結保存してあり、次年度に容易に解析に入れる準備ができているため、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度実施できなかった、in vitroでアネルギー誘導されたT細胞の遺伝子発現の変化がアネルギーにおいて既知の遺伝子発現と合致するか、および、元来令和3年度に施行する予定であった、T細胞アネルギーを誘導するGLP-1シグナリングの同定を予定通りに行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に予定していたin vitroにおけるGLP-1受容体作動薬によるT細胞アネルギー誘導効果の検討のために計画していた実験のうち、T細胞における遺伝子発現の変化についての検討については、COVID-19蔓延による影響で一時期所属施設全体で感染蔓延防止のため研究の遂行が不可能な時期があったため、本実験は次年度に延期せざるを得なくなった。 したがって、支出を予定した遺伝子発現定量キットの購入を次年度に行うため、次年度使用額が生じた。令和3年度にT細胞アネルギーを誘導するGLP-1シグナリングの同定における検討内でもシグナリングに関わる遺伝子発現の検討を追加で行うため、次年度使用額と合わせて支出を計画している。
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