研究課題/領域番号 |
20K16295
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
家村 顕自 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (50778058)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 染色体不安定性 / 細胞増殖 / 細胞分裂 / 多様性 / 増殖優位性 / クローン進化 / がん |
研究実績の概要 |
がん細胞は転移浸潤や薬剤の暴露による生育環境の変化に対して、増殖優位性を獲得した細胞が選択的に増殖(クローン進化)することで環境変化に適応する。がん細胞で高頻度に観察される染色体不安定性は細胞集団に多様性を生み出すことから、がんの環境適応能力を高める可能性が考えられる。しかし、実験系において、がん細胞に染色体不安定性を導入すると、細胞増殖の停止や腫瘍の縮小化が引き起こされる。この結果は、染色体不安定性が抗腫瘍増殖に寄与していることを示唆しており、腫瘍内細胞で染色体不安定性が高頻度でみられる観察結果と矛盾する。 これまでに申請者は、がん細胞株より染色体不安定性の発生頻度が異なる亜種を複数種単離培養し、これらの細胞の増殖過程を観察した。その結果、染色体不安定性を高頻度に有する亜種は通常培養方法では増殖が抑制されていたが、三次元環境下で培養することで増殖能が亢進した。また、次世代シークエンサーを用いた一細胞染色体コピー数解析により、三次元培養した染色体不安定性がん細胞では核型の多様性が減少していることを明らかにしている。加えて、RNA-seq解析により、染色不安定性を高頻度に有する亜種を三次元培養すると、unfolded protein responce(UPR)経路に寄与する遺伝子の発現が変動することを見いだしている。 本年度は、これまでに得ているRNA-seq解析結果をより確実なものにするために、複数の亜種株に対してRNA-seq解析を実施した。その結果、UPR経路に加えてKRAS経路に関連する遺伝子の発現が変動していることを見いだした。また、UPR経路を亢進もしくは抑制する化合物で細胞を処理し三次元培養したところ、染色体不安定性を高頻度に有するがん細胞から形成した細胞塊は当該化合物に対して耐性を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次年度の研究遂行に必要となる、染色体不安定性を高頻度に有するがん細胞のunfolded protein responce(UPR)経路を抑制・亢進した際の増殖能の変化に関わる結果を得ている。この実験系を用いることで、次年度に予定しているUPR活性依存的増殖優位性獲得過程に必要な分子経路の探索を行うことが可能となり、次年度以降の実験計画を滞りなく遂行てきることが予想される。また、これまでの進捗において、当初の予定に加えてKRAS経路が染色体不安定性を高頻度に有するがんの細胞増殖優位性獲得過程に必要である可能性を示唆する結果を得ており、次年度は当該経路に対しても増殖優位性獲得過程に必要な分子経路の探索を実施することを予定している。 加えて、これまでのがん細胞株の実験系に対してより染色体の構造が安定的な正常細胞株に対しても、染色体不安定性を高頻度に有する亜種株を単離することに成功しており、当該細胞対してこれまでの知見をもとに検証することを予定している。 以上のことから、当初の予定どおりに研究がおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
染色体不安定がん細胞の増殖優位性獲得過程に必要な分子経路を探索するために、unfolded protein responce(UPR)の一員であるIRE1の活性化を可視化できるストレス応答プローブを導入し、三次元培養環境下での生細胞観察を行う。UPR活性化が確認された細胞を追跡し、細胞塊の形成過程における各々の細胞の増殖速度、生死運命を検証する。また、蛍光タンパク質の発現を指標にUPR活性化細胞・非活性化細胞をセルソーターによりそれぞれ分取し、RNA-seq解析を行う。各々の細胞での遺伝子発現を比較解析し、三次元培養下のUPR活性化細胞で特異的に変動した分子経路を探索する。 加えて、KRAS経路を抑制・亢進した際に三次元培養下における染色体不安定性がん細胞の増殖能が変化するかどうかを検証する。変化がみられた場合は、KRAS経路活性化を可視化できるプローブを導入し、UPR活性化が確認された細胞と同様の実験を行う。 更に、正常細胞株より単離した高染色体不安定性細胞の三次元培養を行い、染色体不安定性がん細胞と同様の表現型が確認できるかどうかを検証する。UPR経路やKRAS経路の亢進や阻害を行い、細胞塊のサイズに変化がみられるかどうかを観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況と照らし合わせ、本年度においては当初計画していたプール型CRISPR/Cas9 sgRNAライブラリーを用いたノックアウトスクリーニング及び次世代シークエンサー解析を一部行わなかったため、収支において余剰が生じた。しかしながら、本年度執り行わなかったプール型CRISPR/Cas9 sgRNAライブラリーを用いたノックアウトスクリーニング及び次世代シークエンサー解析は、次年度実施する予定であるため、翌年度の助成金の一部として請求した。
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