研究実績の概要 |
免疫原性の低い大腸癌においては、腫瘍免疫微小環境(TME)をいかに賦活化するかが課題である。今回局所進行直腸癌における術前化学療法(NAC)とTMEの関係性を明らかにすることを目的とした。 対象は当科でNAC後に原発切除した局所進行直腸癌の中で、NAC前と術後双方で評価可能であった66例を対象とした。腫瘍細胞に発現したもの(t)と間質に発現したもの(s)を別々に評価した。 全66例中奏効群は18例(27%)、非奏効群は48例(73%)であった。tPD-1陽性例はNAC前6例(10.3%)であったのに対し、術後は14例(24.1%)(p = 0.016)と増加し、tCD8陽性もNAC前16例(26.7%)に対し、術後27例(45.0%)(p = 0.005)とそれぞれ有意に増加した。また、奏効群において生検検体でのtPD-1、tCD8陽性例が有意に多かった(38.9% vs. 4.2%, p = 0.002、61.1% vs. 20.8%, p = 0.008)。さらに、tPD-1とtCD8がともに陽性の症例は8例であり、うち奏効群が7例(87.5%)と有意に多い結果であった(p< 0.001)。NACの奏効予測因子の多変量解析を行うと、tPD-1陽性かつtCD8陽性が独立したリスク因子として抽出された(OR: 29.8, 95% CI: 3.16-281.0, p = 0.003)。 大腸癌においてNACが免疫賦活に寄与する可能性が示唆された。tPD-1陽性かつtCD8陽性は局所進行直腸癌に対するNACの奏効予測因子であることが示唆された。Nonoperative managementを企図して術前治療がさらに強化されたtotal neoadjuvant therapyが拡まる中、治療戦略の安全性と有効性を向上するために治療開始前に奏効予測が立てられることは大きな利点となり得る。
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