研究課題/領域番号 |
20K16312
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
山崎 寛之 東海大学, 医学部, 特定研究員 (90837816)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 滑膜肉腫 / 融合遺伝子 / 相同組換え修復 |
研究実績の概要 |
滑膜肉腫は染色体転座t(X; 18) (p11.2; q11.2)によって生じる悪性腫瘍である。染色体転座によって生じるSS18-SSXを線維芽細胞に発現させると、腫瘍化することから、この染色体転座が滑膜肉腫の発症に重要であることが示唆されている。滑膜肉腫は肺や脳への転移が多く見られる予後不良の腫瘍であり、外科的手術に加え、DNA損傷剤(アドリアマイシン・イフォスファミド)を用いた化学療法が行われる。しかし、滑膜肉腫においてDNA損傷剤が効くメカニズムはいまだに解明されていない。本研究では滑膜肉腫におけるDNA修復異常を解明することを目的とした。 滑膜肉腫は発症由来が未知な腫瘍である。そのため、様々ながん細胞株に滑膜肉腫原因融合蛋白SS18-SSXを過剰発現させ、滑膜肉腫の状態を模倣した細胞を用いて実験を行った。その結果、相同組換え修復因子であるRAD51のfoci形成が抑えられた細胞株(OVCAR8細胞)が存在した。さらに、相同組換え修復に異常のあるがんに対して用いられるPARP阻害剤に対する感受性をcolony formation assayによって調べたが、SS18-SSXの過剰発現によってPARP阻害剤に対する感受性に変化は見られなかった。 一方、DNA二本鎖切断は主に相同組換え修復及び非相同末端結合の2種類の経路で修復されるが、非相同末端結合で働く53BP1とRIF1をそれぞれ滑膜肉腫細胞で欠損させると、RIF1を欠損させた細胞のみ浮いてきた。非相同末端結合では53BP1が上流で働くため、非相同末端結合とは異なるRIF1の機能が滑膜肉腫の生存に必要である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始当初、SS18-SSXを過剰発現させることでRAD51のfoci形成が減少し、PARP阻害剤に対して高感受性を呈するようになると仮説を立てていた。しかし、SS18-SSXを過剰発現させたことによるPARP阻害剤の高感受性を呈するようにならず、これまでと異なる仮説を立てて研究を進める必要が生じたため、やや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
RIF1は非相同末端結合以外に複製ストレスやorigin firingを抑える機能を有している。53BP1の欠損ではなくRIF1の欠損によって滑膜肉腫細胞が浮いてきたことから複製ストレスやorigin firingに対する応答に異常が見られることが考えられる。そこで、今後は滑膜肉腫におけるDNA複製に焦点を当てて研究を行なっていく予定である。
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