本研究では、転移性脳腫瘍において重要な役割を果たすと考えられているアストロサイトの活性化がどのようなメカニズムで引き起こされているのかを明らかにする。特に、がん細胞存在下におけるアストロサイトと周囲のグリア細胞の相互作用に着目して解析を行うことにより、脳転移微小環境における細胞間相互作用をターゲットにした転移性脳腫瘍の治療法の開発を目指すものである。 2022年度は、申請者が同定した代謝型グルタミン酸受容体 mGluR1の転移性脳腫瘍における機能をより詳細に解析した結果、脳転移がん細胞において発現が亢進したmGluR1がEGFRのシグナルを増幅させることにより、原発巣の微小環境とは大きく異なる脳転移微小環境に適応できることを明らかにした。 EGFR遺伝子変異を有する肺がんには、Osimertinibなどの変異型EGFRへの分子標的薬が標準治療となっているが、新たな変異の獲得による治療抵抗性が問題となっている。そこで、CRISPR-Cas9システムを用いて肺がん細胞株であるPC9のOsimertinib耐性細胞株を樹立し、in vitro共培養系を用いてmGluR1阻害剤への感受性を検討した。その結果、親株であるPC9細胞はアストロサイト共培養条件においてOsimertinibとmGluR1阻害剤のどちらにも感受性を示した。一方、Osimertinib耐性細胞株はアストロサイト共培養条件においてOsimertinib抵抗性を示したが、親株と同様にmGluR1阻害剤への感受性を示した。さらに、脳転移マウスモデルを用いた実験においてもOsimertinib耐性細胞株に対してmGluR1阻害剤が脳転移を大きく縮小させることが明らかになった。これらの結果より、Osimertinib耐性脳転移肺がんの新たな治療法としてmGluR1を標的とした分子標的治療が有効であることを明らかにした。
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