研究課題/領域番号 |
20K16330
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐田 遼太 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (60869783)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DKK1 / CKAP4 / FOXM1 / 腫瘍免疫 / 腫瘍微小環境 / 肝細胞がん / 膵がん / 食道がん |
研究実績の概要 |
我々はWntシグナル制御因子である分泌蛋白DKK1の新規細胞膜受容体CKAP4を同定し、種々のがんにおいてDKK1-CKAP4シグナルによる細胞増殖機構を明らかにしてきた。一方、がんにおけるDKK1過剰発現の機構及び腫瘍微小環境におけるDKK1の機能については十分な解析が進んでいない。私共は膵がん由来細胞株S2-CP8細胞においてDKK1下流で発現制御される遺伝子を網羅的に解析し転写因子FOXM1を見出した。FOXM1はDKK1-CKAP4経路下流でAKTの活性化を介して発現亢進し、またゲノムにおけるDKK1遺伝子の5’上流領域にFOXM1が結合することでDKK1が発現制御されるポジティブフィードバック機構を介して、膵がんおよび食道扁平上皮がんの細胞増殖を促進する分子機構を見出した。また、膵がん・食道がんの手術検体を用いた免疫染色で、DKK1およびFOXM1を共発現する症例ではそれ以外の症例と比較して予後が不良であることを見出した。これらの結果から、膵がん・食道扁平上皮がんにおいてDKK1-CKAP4 FOXM1シグナルが予後不良と関わること、また同シグナル経路が新規治療ターゲットとなり得ることを示し、成果を論文発表した。また我々はHTVi法を用いて正常免疫マウス肝臓に活性型変異βカテニン、c-Mycなど複数のがん遺伝子を発現誘導し、またCrispr/Cas9システムを用いたTrp53遺伝子のノックアウトと合わせてDKK1遺伝子を導入し、肝内に多発腫瘍形成を誘導するDKK1高発現肝がんモデルマウスを作製した。さらに、同モデルから複数のオルガノイドを樹立し、継代可能であることを確認している。現在、オルガノイドの肝同所移植モデルを作製するとともに、上記モデルにおいてDKK1発現依存性に免疫応答が制御されるかどうかを解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では2年間の研究期間で、①各種ヒトがんにおけるDKK1-CKAP4シグナルとFOXM1との関連②DKK1高発現マウスがんモデルの確立③正常免疫マウスに誘導した DKK1高発現マウスがんモデルの腫瘍微小環境におけるDKK1の機能を明らかにすることを目的としている。現在までに①膵がん・食道扁平上皮がん由来細胞株にお いて転写因子FOXM1がDKK1-CKPA4シグナル下流においてAKTの活性化を介して発現促進されていること、またゲノム上のDKK1遺伝子5’上流領域にFOXM1が結合しDKK1の発現を制御するポジティブフィードバック機構を介して細胞増殖を促進し、実際の臨床症例においてDKK1とFOXM1の共発現が予後不良と相関することを明らかにし、研究成果を査読付き英語論文として報告した。②またHTVi法をもちいてマウス肝臓にDKK1遺伝子を導入することに成功し、複数のがん遺伝子発現およびがん抑制遺伝子欠損との組み合わせでDKK1過剰発現肝腫瘍モデルマウスを確立した。更に、同モデルから複数の肝がんオルガノイドを樹立した。一方で、③上記モデルにおいて発現したDKK1遺伝子の腫瘍微小環境における機能解析については、現在、フェノタイプ解析のためのアッセイ系を立ち上げている状況である。 以上より、やや遅れていると判断し、補助事業期間の延長を申請した。
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今後の研究の推進方策 |
1)これまでに確立した複数のDKK1高発現肝細胞がんマウスモデルにおいて、DKK1依存性に観察されるフェノタイプを明らかにするとともに、対照群およびDKK1高発現肝細胞がんマウスモデルより摘出した肝腫瘍から核酸を抽出しトランスクリプトーム解析を行うことで、DKK1依存性に腫瘍微小環境で変動するシグナル経路を網羅的に解析する。 具体的には、抗腫瘍免疫応答を抑制されることが既に報告されている活性型変異βカテニンの過剰発現、あるいは腫瘍抑制因子PTENやTrp53のノックアウトなど様々な遺伝的背景を持つ肝細胞がんモデルマウスにDKK1を発現させ、腫瘍増殖能や腫瘍転移能、腫瘍微小環境における免疫応答・血管新生に及ぼす影響を検討する。更に、同腫瘍モデルより既に樹立したオルガノイドを用いて、in vitroで様々な遺伝子編集を行ったのちに、肝同所に移植し、生着増殖する腫瘍より遺伝子を抽出し網羅的解析を行うことで、肝がんにおけるDKK1依存性のフェノタイプ発現に他のどのような遺伝子が関与しているかを、特に抗腫瘍免疫応答に対する免疫会費機構に着目して探索する。さらに、我々が上記肝細胞がんマウスモデルにおいてDKK1下流で新規に見出した遺伝子が治療ターゲットとなり得るかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き、動物実験に用いる免疫不全マウス・通常免疫マウスおよび動物飼育施設のでの動物飼育および実験スペース利用に伴う費用が必要である。また生化学的解析に用いる試薬、組織免疫化学的解析に用いる抗体試薬が必要であり、消耗品費として使用する予定である。肝細胞がんモデルマウス由来の肝腫瘍より樹立したオルガノイドの培養に各種細胞増殖因子の購入が必要である。また肝細胞がんモデルマウスより摘出した腫瘍に対してRNAシーケンスや次世代シーケンサーを用いたGWS解析、FACS法を用いた細胞分離と一細胞RNAシーケンスなど網羅的解析を行っていく計画であり、それらを外注する費用として使用する予定である。
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