研究課題/領域番号 |
20K16331
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
瀧口 豪介 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (60647767)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 胃癌 / がん微小環境 / Wnt5a-Ror2 / CXCL16-CXCR5 / PI3K-AKT-mTOR / がん関連繊維芽細胞 |
研究実績の概要 |
癌微小環境では様々な細胞や因子が複雑に作用しながら、癌の増殖、浸潤、転移が促進される。癌に対するより有効な集学的治療法の開発には、この癌微小環境における、細胞や因子の働きや細胞間の相互作用、シグナルネットワークを解明する必要がある。我々はこれまでに癌微小環境における癌細胞増殖促進モデルとして、骨髄由来の間葉系幹細胞であり受容体型チロシンキナーゼ Ror2を発現する繊維芽細胞が胃癌細胞との共培養により、Wnt5a-Ror2シグナルの活性化を介しサイトカインの1種であるCXCL16の分泌を増加させ、胃癌細胞が持つCXCL16の受容体であるCXCR6を刺激し、胃癌細胞の増殖を促進する事を明らかにした。本研究では線維芽細胞が癌細胞の増殖だけでなく浸潤や転移も促進するか、また癌細胞内においてCXCL16-CXCR6シグナルの下流にPI3K-AKT-mTORシグナルが働い ているかを明らかにし、Wnt5a-Ror2、CXCL16-CXCR6、PI3K-AKT-mTORシグナル経路をターゲッ トとした治療法の確立を目的とする。 これまでにヒト未分化胃癌細胞株MKN45とヒト初代培養骨髄由来MSCを用いた直接的、間接的共培養実験により、MSCがWnt5a-Ror2シグナルの活性化により液性因子の分泌を促進し、MKN45に対し細胞増殖促進作用を有する事、またMSCがWnt5a-Ror2シグナルの活性化によりCXCL16の分泌を促進し、分泌されたCXCL16はMKN45が発現するケモカイン受容体 CXCR6に結合し、細胞内にシグナルを伝達することで、MKN45の細胞増殖を促進させることを明らかにした。現在、CXCL16-CXCR6シグナルの下流にPI3K-AKT-mTORシグナルが働いているか研究を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、CXCL16-CXCR6シグナルがMSCsにおいても細胞自律的に活性化され、CCL5の発現を上昇させることを明らかにした。さらに、CCL5の受容体であるCCR1およびCCR3がMKN45細胞の表面に発現していること、MSCから分泌されたCCL5がCCR1/CCR3との結合を介して推定的にMKN45細胞の移動を促進することを明らかにした。これらのデータは、MSCにおいて活性化された細胞自律的なCXCL16-CXCR6シグナルがCCL5の発現を上昇させ、その後細胞間装置を通じてMKN45細胞におけるCCL5-CCR1/3シグナルが活性化されることによりMKN45細胞の移動を促進することを示すものであった。これらの知見を総合すると、未分化胃癌細胞の進行を制御するために、MSCから発せられる組織化されたケモカインシグナルが存在することが推測される。本研究は、このメカニズムについて、検討を進める。
|
今後の研究の推進方策 |
CXCL16-CXCR6 signalingにおいて、STAT3をリン酸化する分子機構の解明 に関しては STAT3リン酸化がJAKに依存しているか、を検討する。さらに病理組織切片において遺伝子発現とがんの進展の関連を検討してく方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染の蔓延に伴う制限で、当院研究施設での検体解析が一時期、制限され、進捗状況が遅れ、研究再開が遅延したため、計画通りの使用とならなかった。また、試薬を注文した際にも、海外からの取り寄せに制限がかかり、かなりの時間があるを要するために、実験が遅延する結果となった。このため、昨年度分の計画をそのまま遂行し、成果につなげたい。
|