癌微小環境では様々な細胞や因子が複雑に作用しながら、癌の増殖、浸潤、転移が促進される。癌に対するより有効な集学的治療法の開発には、この癌微小環境における、細胞や因子の働きや細胞間の相互作用、シグナルネットワークを解明する必要がある。我々はこれまでに癌微小環境における癌細胞増殖促進モデルとして、骨髄由来の間葉系幹細胞であり受容体型チロシンキナーゼ Ror2を発現する繊維芽細胞が胃癌細胞との共培養により、Wnt5a-Ror2シグナルの活性化を介しサイトカインの1種であるCXCL16の分泌を増加させ、胃癌細胞が持つCXCL16の受容体であるCXCR6を刺激し、胃癌細胞の増殖を促進する事を明らかにした。本研究では線維芽細胞が癌細胞の増殖だけでなく浸潤や転移も促進するか、また癌細胞内においてCXCL16-CXCR6シグナルの下流にPI3K-AKT-mTORシグナルが働いているかを明らかにし、Wnt5a-Ror2、CXCL16-CXCR6、PI3K-AKT-mTORシグナル経路をターゲットとした治療法の確立を目的とする。 これまでにヒト未分化胃癌細胞株MKN45とヒト初代培養骨髄由来MSCを用いた直接的、間接的共培養実験により、MSCがWnt5a-Ror2シグナルの活性化により液性因子の分泌を促進し、MKN45に対し細胞増殖促進作用を有する事、またMSCがWnt5a-Ror2シグナルの活性化によりCXCL16の分泌を促進し、分泌されたCXCL16はMKN45が発現するケモカイン受容体 CXCR6に結合し、細胞内にシグナルを伝達することで、MKN45の細胞増殖を促進させることを明らかにした。現在、CXCL16-CXCR6シグナルの下流にPI3K-AKT-mTORシグナルが働いているか研究を進めている。
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