我々は生命科学データベースからエストロゲン受容体α(ERα)陽性乳がんの予後不良因子として、プロリン異性化酵素であるFKBP52を同定した。FKBP52はがん組織で増加し、がん組織にFKBP52が多いと患者の生存期間は短縮する。FKBP52のER陽性乳がんにおける治療標的としての可能性を追求するため、乳がん増殖の主要な制御因子であるERαとの関係に着目しFKBP52による乳がん悪性化のメカニズム解明を試みた。 前年度までに乳がん細胞株においてFKBP52がERαを安定化させ、乳がん細胞の増殖に必須であることを明らかにした。この結果はFKBP52が乳がんの予後不良因子であるというデータベースの所見と一致しており、FKBP52の阻害は抗腫瘍効果を示した。最終年度ではFKBP52の阻害による抗腫瘍効果が内分泌治療抵抗性乳がん細胞または生体内(in vivo)でも認められるかを検証した。 ER陽性乳がんでは内分泌治療が効果的であるが、再発・耐性化が問題となっており、再発・耐性化後もERαが乳がんの増殖に重要であることが知られている。内分泌治療抵抗性乳がん細胞株においてFKBP52を阻害すると、今までの結果と一致して、ERαの発現量、細胞増殖が減少した。 更に、FKBP52を遺伝子ノックダウンした乳がん細胞の移植によりXenograftマウスモデルを作製し、生体における抗腫瘍効果を検討した。FKBP52ノックダウン細胞由来の腫瘍は対照細胞由来のものより小さく、細胞増殖マーカーであるKi-67の陽性率も低下していた。 これらの結果からFKBP52の阻害は内分泌治療抵抗性乳がん細胞や生体内においても抗腫瘍効果を示すことが明らかとなり、FKBP52が内分泌治療抵抗性を含むER陽性乳がんの新規治療標的となる可能性を示した。
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