本研究は、上皮系の大腸がん細胞であるHCT116細胞に上皮間葉転換 (EMT) を誘導したEMT細胞を用いて、EMTに伴って高感受性化する薬剤を同定する。次に、その高感受性化に関わる分子機構を明らかにし、がんの細胞転換を標的とした新規治療法を考案することを目的としている。 昨年度までにEMT細胞では、GPX4の基質である細胞内glutathione量が低下しており、GPX4の阻害に対する感受性が高いことを明らかにしている。GPX4は、過酸化脂質をアルコールに還元する酵素であり、GPX4を阻害することで過酸化脂質が蓄積する。EMT細胞では、RSL3による過酸化脂質の蓄積が親株よりも起こりやすいことが明らかになった。一方でsulfasalazineやerastinの存在下では、RSL3はすべての細胞で過酸化脂質を蓄積させた。以上から、EMT細胞のRSL3高感受性に関わる分子機構は細胞内glutathione量以外にも存在することが示唆された。 HCT116細胞、EMT細胞は、スフェロイド培養時にはRSL3に耐性になることがわかっている。そこで、glutathione量を減少させるsulfasalazineの存在下で、RSL3の感受性試験を行ったが、RSL3の感受性に変化はなかった。この結果から、スフェロイド培養時には、細胞内glutathione量はRSL3の感受性に関与しないことが示唆された。一方で、dBET6は、通常培養およびスフェロイド培養時でEMT細胞のRSL3の感受性を増大させた。dBET6によるRSL3の感受性化に関与する標的分子の探索を行いALDH1/2を同定した。ALDH1A3に対するsiRNAの導入は、EMT細胞のRSL3感受性を増大させた。ALDH1/2はスフェロイド培養時に発現が増大することから、スフェロイド培養時のRSL3耐性化にALDH1/2が関与することが考えられた。
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