研究課題/領域番号 |
20K16344
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
宮田 憲一 公益財団法人がん研究会, がん研究所 細胞老化プロジェクト, 研究員 (20816938)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞老化 / 反復配列 / 乳がん |
研究実績の概要 |
我が国の乳がんの罹患率は年々増加傾向にあり、女性では罹患率が最も高いがんである。乳がんの約70%はER(エストロゲン受容体)陽性型であり、エストロゲンにより増殖・転移が促進されるため、エストロゲンの働きを抑制するホルモン療法が広く行われている。しかし、約30%のER陽性型乳がん患者においてはホルモン療法に対して不応性であることや、長期療法によって治療耐性を獲得し再発を来たすこと等が問題となっている。そのため、既存療法に代わる革新的な新規治療戦略の開発が強く求められている。 申請者はこれまでに、ゲノム上の遺伝子非コード領域の反復配列のクロマチン構造が、老化細胞ではオープン(転写活性化)状態にあり、この特徴的な染色体構造:ORSP(Opened Repetitive Sequence Phenotype)がSASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)因子の遺伝子発現に重要であること、そして、がん微小環境に存在する老化細胞がORSPを示すことでSASP因子を分泌し、がん細胞の悪性化を助長していることを明らかにしてきた。そこで、本研究計画では、老化細胞で特徴的なORSPが、一部の乳がんでも形成されているという我々が同定した新知見に基付き、乳がんにおけるORSPが腫瘍悪性化機構へ及ぼす影響の解明、さらには乳がんの新規治療戦略の開発へ繋げることを目的としている。 そこで本年度は、計画通り高頻度にORSPが起きている細胞は、どのような特徴があるのかを明らかにすべく様々な解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先ず研究代表者は、昨年度確立したORSP(Opened Repetitive Sequence Phenotype)を検出及び評価するDNA-Fluorescence in situ hybridization(DNA-FISH)法を実施し、ORSPを示す細胞の特徴を詳細に解析した。その結果、乳がん細胞株の中でも特にER(エストロゲン受容体)陽性型の細胞株でORSPが高頻度起きていることが明らかになった。さらに、ORSPを呈するがん細胞株とそうでない細胞株の遺伝子発現変動をRNA-seq法により比較した結果、ORSPを呈するがん細胞株ではクロマチンリモデリング関連遺伝子群の発現が有意に上昇していることが明らかになった。興味深いことに、ER陽性型の乳がん細胞株においては、これらの遺伝子群の発現上昇が顕著に起きていることが観察された。これらの結果から、ORSPを呈する細胞では、特異的なエピジェネティクスな変化が起きている可能性が示唆された。以上の成果より、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度明らかになったORSPを呈する細胞では特異的なエピジェネティクスな変化が起きている可能性を裏付けるべく、実際にER陽性型乳がんで起きていることを検証する。具体的には、乳がん臨床検体をシングルセルレベルでATAC-Seq(Assay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput sequencing)解析を行い、高頻度にORSPが起きている細胞とそうでない細胞とを、ゲノムワイドにクロマチン領域のアクセシビリティを評価し、ORSPが腫瘍悪性化機構へ及ぼす影響の解明に向けた方策を得たい。
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