申請者はこれまでに、ゲノム上の遺伝子非コード領域の反復配列のクロマチン構造が、老化細胞ではオープン(転写活性化)状態にあり、特徴的な染色体構造:ORSP(Opened Repetitive Sequence Phenotype)を呈していることを見出してきた。また、昨年度までの研究成果として、ORSPを検出及び評価できるDNA-FISH法を実施し、乳がん細胞の中でも特にER陽性型の細胞でORSPが高頻度起きていることを発見している。 そこで本年度は、ER陽性型の乳がん臨床検体のシングルセルATAC-Seq(Assay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput sequencing)解析を行い、高頻度にORSPが起きている細胞とそうでない細胞とを、ゲノムワイドにクロマチン領域のアクセシビリティ評価を行った。通常のscATAC-seq解析パイプラインでは、ORSPの検出に対応していないため、まずは新規解析パイプラインの構築を行った。その後、この新規パイプラインを活用し、乳がん臨床検体のscATAC-seqデータについて解析を行った結果、興味深いことに、ORSPを示す乳がん細胞では細胞老化で特徴的なLCE(Late cornified envelope)遺伝子座のクロマチンアクセシビリティが著しく上昇していることを見出した。これらの結果は、ORSPを示す乳がん細胞は老化細胞とエピゲノムが類似している可能性を示唆している。
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