本研究では、神経芽腫のがん遺伝子として知られるMYCNによる発がんにおいて、MYCNがエピゲノム制御分子であるEZH2と物理的に結合する意義・それによる発がん機構解明を目的とした。具体的には、(1)MYCNとEZH2の結合様式を明らかにし、(2)EZH2と結合しないMYCN変異体を用いた神経芽腫発生の検証、(3)ゲノム上での局在やエピゲノム修飾、遺伝子発現の網羅的な解析を行った。 (1)MYCNの各ドメインを欠損した変異MYCNを作成し、神経芽腫細胞株SH-SY5Yで強制発現させ、近接ライゲーションアッセイによりEZH2との結合を調べた。予想外に、全ての欠損変異MYCNがEZH2と結合してしまうという結果となった。最近、MYCNのMB2ドメインがEZH2と結合しているとの報告が出たため、同様に検証を行ったが再現性は得られなかった。 (2)MYCNのMB2ドメインを欠損した変異体を用いてマウス副腎由来細胞の形質転換実験を行った。興味深いことに、変異体ではMYCNによるがん化が著しく抑制された。MB2ドメインが真にEZH2との結合に関与していれば、この結合ががん化の鍵となると想定される。 (3)MYCNが増幅している神経芽腫細胞株KELLYを用いて、EZH2のChIP-seqを行い、MYCNやヒストン修飾のChIP-seq公共データと統合し、ゲノム上での結合領域を調査した。その結果、MYCNが結合しているプロモーター領域でEZH2が共に結合しており、ターゲット遺伝子の発現を正に制御している可能性が示唆された。EZH2による発現制御を明らかにするために、EZH2のノックダウンもしくは阻害剤を用いたときの遺伝子発現変化をCAGE-seqにより取得し、現在データ解析中である。 MYCNとEZH2による発がん機構解明に向け少しずつ進展しており、引き続き研究を推し進めていく予定である。
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