研究課題/領域番号 |
20K16357
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川上 洋平 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (50626570)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん骨転移 / miRNA / エクソソーム / 破骨細胞 / 骨破壊 |
研究実績の概要 |
がん骨転移による骨破壊は様々な骨関連事象を引き起こし、患者QOLの低下につながるため、早期発見・治療が重要だが、骨転移のメカニズムは十分には解明されていない。近年、細胞から分泌されるエクソソーム中のmiRNAが生体機能に様々な影響を及ぼしており、がん骨転移や骨破壊にも関与していることが示唆されている。本研究の目的は、がん骨転移における骨破壊や破骨細胞活性におけるmiRNAの影響を検討する事である。 ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231にGFP(コントロール)、miR-16、-133a、-223をプラスミド導入し、各導入細胞の培養上清(miR-CM)中の溶骨性因子(IL-1β、IL-6、PTHrP、TNF-α、RANKL)の発現をReal-time PCRで評価した。MDA-MB-231細胞における溶骨性因子の発現は、miR-16-CMで上昇し、miR-133a-CM、miR-223-CMで低下する傾向を認めた。また破骨細胞活性へ与える影響を検討するため、RAW264.7細胞株でのRANKL刺激による破骨細胞分化課程において、各miR-CMでの培養を行い、破骨細胞の活性および形態について、Real-time PCRおよび TRAP染色で評価した。RAW264.7細胞株を用いた検討では、miR-16-CM添加群で破骨細胞活性が高く、形態も維持される傾向を認めた。miR-133a-CM、miR-223-CM添加群では破骨細胞活性は低く、形態も維持されない傾向にあった。本研究の結果から、miR-16の過剰発現によりヒト乳癌細胞株MDA-MB-231の培養上清中の溶骨性因子の発現増強を認め、また培養上清での破骨細胞形態が維持されており、miR-133a、miR-223ではそれらが抑制されていたことから、前者ががん骨転移における骨破壊を増悪させ、後者は抑制的に作用する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のこれまでの結果から、miR-16の過剰発現によりヒト乳癌細胞株MDA-MB-231の培養上清中の溶骨性因子の発現増強を認め、また培養上清での破骨細胞形態が維持されており、miR-133a、miR-223ではそれらが抑制されていたことから、前者ががん骨転移における骨破壊を増悪させ、後者は抑制的に作用する可能性が示唆された。さらなる検討により、がん骨転移の骨破壊におけるmiRNAの機能解明や治療標的探索に繋がる可能性があると考えられた。現在、さらに各miR-CMが破骨細胞へ与える影響の検討として、象牙培地上で破骨細胞を培養し、吸収窩を測定するBone resorption assayを行い、骨吸収能は,miR-16-CM存在下で上昇、miR-133a/223-CM存在下では低下する傾向を認めている。In vivo では、miRNAを導入した乳癌細胞(MDA-MB-231,1.0x106cells)を6週齢ヌードマウスの脛骨近位に移植し,骨転移モデルを作成し、3週後に骨破壊の程度をμCTや組織学的に評価を行っている。miR-16群で骨破壊像が顕著な傾向を認めたが、まだデータ数が十分ではなく、有意差は得られていない。 In vitroでmiR-16の過剰発現によりMDA-MB-231における溶骨性因子の発現が増強し、破骨細胞分化・活性が亢進することが確認され、一方miR-133a・-223では逆の結果が得られたことから、前者が乳癌骨転移における骨破壊を増悪させ、後者は抑制する事が確認でき、In vivoでの実験系へ進める事ができ概ね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
miRNAを導入した乳癌細胞(MDA-MB-231,1.0x106cells)を6週齢ヌードマウスの脛骨近位に移植し,骨転移モデルを作成し、術後3週後に脛骨及び周囲の腫瘍浸潤組織、転移性腫瘍を摘出して組織標本を作製し、骨破壊の程度を骨量(μCT)免疫組織学的評価(HE染色,TRAP染色,免疫染色(IL-1b, IL-6, RANKL, TNF, PTHrP)、細胞増殖に関しては抗Ki67抗体を用いた免疫組織化学的に解析を行い、臨床応用のために重要な骨転移のメカニズムの解明と抑制系miRNAを用いた転移抑制治療法の開発を目指す予定である。 これまでのin vitroでの研究でmiR-16群では骨破壊亢進、骨量低下、破骨細胞数の増加、溶骨性因子の発現増強を認めており一方miR-133a・223群では骨破壊抑制、骨量増加、破骨細胞数の減少、溶骨性因子の発現低下を認めており、これらのmiRNAが,乳癌骨転移の骨破壊に対するバイオマーカーや治療標的となる可能性があり、さらに実験をすすめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス(COVID-19)の拡大に伴い、学会活動の制限が生じ、また動物舎の使用制限に伴い、スケジュールを一部変更せざるを得なかったため次年度使用額が生じた。使用計画としては、In vivoでの実験を実験計画に沿ってすすめるとともに、得られた研究成果を国際学会等で順次報告する予定である。
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