研究課題/領域番号 |
20K16358
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
飯田 理恵 神戸大学, 医学研究科, 学術研究員 (10816771)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Bリンパ腫 / マウスモデル / トランスレーショナルリサーチ / 免疫系ヒト化マウス |
研究実績の概要 |
免疫不全マウスにヒト造血幹細胞を移植して作製された免疫系ヒト化マウスでは、マウス体内でヒト免疫系の再現が可能である。同マウスの腫瘍移植モデルは、ヒト免疫細胞を標的としたがん治療薬の評価に用いられている。しかし従来の免疫不全マウスをヒト化した場合、ヒトT・B細胞は高効率に分化するが、マクロファージなどの骨髄系細胞の分化が不良であった。次世代型のヒトサイトカイン高発現免疫不全マウス(MITRGマウス)にヒト造血幹細胞を移植した場合、ヒトマクロファージの分化や移植腫瘍内への浸潤が亢進し、マクロファージなどの自然免疫系を含めた腫瘍免疫環境の評価が可能である。 このヒトサイトカイン高発現免疫系ヒト化マウスにBリンパ腫細胞株(Raji)を移植し、ヒトマクロファージに発現するSIRPαを標的とした抗体の in vivo評価を行なった。具体的には、コントロールIgG投与群、抗CD20抗体(Rituximab)単独投与群とRituximab・抗ヒトSIRPα抗体併用投与群の腫瘍径・重量を比較したところ、Rituximab単独投与と比較し、抗ヒトSIRPα抗体との併用において著しく腫瘍サイズが減少した。この効果はヒト造血幹細胞移植をしていない免疫不全マウスの腫瘍移植モデルでは見られなかった。さらに、以上の抗体投与実験をマクロファージ枯渇試薬 (Clodronate) 投与下で行った結果、抗ヒトSIRPα抗体による抗腫瘍効果が減弱する予備的な実験データが得られた。 以上の結果から、MITRGマウスを宿主とした免疫系ヒト化マウス腫瘍モデルではヒトマクロファージを標的とした薬剤のin vivo評価が可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、免疫系ヒト化マウス腫瘍モデルを用いて、抗ヒトSIRPα抗体の奏効性に加え、ヒトマクロファージの貪食増強効果を介して腫瘍の縮小がみられることを示唆するデータが得られている。さらに、移植腫瘍内に浸潤したヒトマクロファージ(TAM)の表面抗原解析やサイトカイン定量により、Rituximabと抗SIRPα抗体の投与によるTAMの免疫応答の活性化傾向が見られることから、同モデルによるin vivoでのヒトTAMの薬剤応答性について評価可能であることが示唆されている。一方で、実際のヒトとは異なり、当モデルでの末梢血でのヒトT細胞の存在率は低く、腫瘍内へのT細胞浸潤がほとんど見られない個体が大半であったため、T細胞による獲得免疫機構は本研究で得られた抗腫瘍効果には寄与していないことが示唆された。そのため、がん細胞貪食後の抗原提示によって引き起こされる獲得免疫を含めて評価するという点に関しては、宿主マウスを他のヒトサイトカイン発現免疫不全マウスへ変更するか新たな遺伝子改変マウスの開発が必要であると予想される。
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今後の研究の推進方策 |
同マウスモデルの移植腫瘍から分取したヒトTAMの抗ヒトSIRPα投与時における応答を遺伝子発現レベルで明らかにするため、RNA-seq解析を行い、抗腫瘍効果との関連について検討する。また、臨床での治療効果の予測のため、患者由来のサンプルを用いた腫瘍組織移植モデル(Patient-derived xenografts:PDXモデル)を確立する。さらに、患者ごとに異なるがん免疫環境を同マウスモデルで反映できているかを明らかにするため、採取した患者検体と免疫系ヒト化マウスの移植後の腫瘍組織についてマクロファージなどの免疫細胞やそれらの亜集団の比率について比較する。加えて、これらの免疫環境の特徴と抗ヒトSIRPα抗体の奏功性の関係について検証する。
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