本研究では、治療前のEGFR 活性化変異陽性肺がん患者由来のがん細胞集団(治療前細胞群)と、そこから実験的に樹立した薬剤耐性細胞株(薬剤耐性細胞群)、そして実臨床での薬剤治療によって出現したT790M 耐性変異陽性細胞集団(T790M変異細胞群)を用い、薬剤耐性変異獲得に至る分子メカニズムをシングルセルRNA-seqやシングルセルATAC-seq、ゲノムワイドな変異解析手法を組み合わせることで解明することを目的としている。今年度は、シングルセルATAC-seq解析を実施し、昨年度実施したシングルセルRNA-seqの解析結果と比較検討した。その結果、シングルセルATAC-seqの結果はシングルセルRNA-seqの結果と一致し、治療前細胞群、薬剤耐性細胞群、そしてT790M変異細胞群の全てでEGFR阻害剤処理により細胞集団が大きく変化することを明らかにした。また、シングルセルATAC-seqの解析から、薬剤耐性変異獲得前の初期薬剤耐性にはEGFR阻害剤処理に対する炎症応答が寄与していることが示唆された。さらに、シングルセル解析によって各細胞群はよりより細かな細胞集団によって形成されていることが示され、がん不均一性の存在が明らかとなった。これら不均一ながん細胞集団では突然変異パターンにも不均一性が観察され、エピジェネティックな遺伝子発現調整やクロマチン構造の変化と突然変異率の間には関連性がある可能性が示された。
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