研究課題
がん組織の遺伝子発現パターンは組織内で不均一なものであり、治療抵抗性に関与する。ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色像から得られるがんの形態学的特徴は、その遺伝子発現パターンの不均一性を判断する重要な情報である。今回、我々はHER2陰性乳癌を対象に、その形態学的特徴からHER2-mRNA発現レベルを予測する人工知能(AI)システムの開発と有用性の評価を行った。The Cancer Genome Atlasに登録されている浸潤性乳癌コホートからHER2陰性乳癌101例のHE画像と網羅的遺伝子発現データをダウンロードした。HER2-mRNA高発現群(51例)と低発現群(50例)の腫瘍部のHE画像の形態学的特徴の違いに関して、「AlexNet 」、「VGG16」、「VGG19」の3種類のConvolutional Neural Network(CNN)モデルを用いて、深層学習を行った。それぞれの学習モデルの判別精度、感度および特異度を計算した。またROCカーブを作成し、Area Under the Curve(AUC)値を求めた。「AlexNet 」では、判別精度は62%(感度:86%、特異度:38%、AUC:63%)であり、「VGG16」では、判別精度は89%(感度:91%、特異度:85%、AUC:95%)であった。また、「VGG19」においては、判別精度は92%(感度:90%、特異度:95%、AUC:98%)と、もっとも高い精度でHER2-mRNA発現レベルの「高発現群」と「低発現群」を見分けることができた。HER2陰性乳癌の形態学的特徴からHER2-mRNA発現レベルを高い精度で予測できるAIアルゴリズムを開発した。今後は、別の浸潤性乳癌コホートを使って、本アルゴリズムの予測能の高さを再検証する予定である。
2: おおむね順調に進展している
いくつかの研究を並行して行っているが、どれも順調に結果が出つつある、深層学習プラットホームは完成しているので、翌年はバリデーション解析を進められたらと考えている。
まず深層学習による独自の遺伝子発現パターン解析システムを用いて、乳がんの網羅的RNA解析データから腫瘍内リンパ球浸潤(TILs)に関与する分子経路を同定する。Artificial neural networkは膨大かつ複雑なデータベースから目的とされる因子を見つけ出すために作成された深層学習機能を用いた統計学的モデルの一つである.既存のバイオインフォマティクス解析の場合、研究者が適切な統計学的モデルを選択し、コンピュータを用いて解析を行っていたが、そのプラットホームをAIが代行することにより、迅速かつ正確な結果を導き出すことができる。その結果をもとに、TILsの分子経路に関与する遺伝子ががん組織内でどのような発現パターンを有するのかを空間的遺伝子発現解析を用いて分子形態学的に評価する。空間遺伝子発現解析はがん組織を無数のブロックに分け、それ1つ1つに関して網羅的遺伝子解析を施行する革新的技術である。がん組織は様々な細胞ががん細胞を取り囲んでおり、またがん細胞自体も特徴は均一ではなく、ヘテロジェネイティが存在することが分かっている。そのため、最終的には免疫染色による形態学的特徴を病理学的に評価することが今までのリサーチでは良く行われてきた。しかしながら、複数の因子を同じ切片に何重にも免疫染色を行うことは、技術及び評価方法の面で難しいものがある。空間遺伝子発現解析によって複数の遺伝子サブセットの発現パターンを腫瘍切片上にマッピングすることが可能となり、この問題を解決することができる。また、腫瘍全体での腫瘍免疫応答パターンを色彩をもった形で可視化できることは、そのカラーバリエーションの微細な違いを評価する点に人の目の代わりにAIを用いることの有用性が存在する。
該当なし
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Breast Cancer Res
巻: 22 ページ: 85
10.1186/s13058-020-01324-4