研究課題/領域番号 |
20K16377
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田部 亜季 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (60786367)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 抗体薬物複合体 / 自己免疫疾患 / 血液悪性腫瘍 / 抗体エンジニアリング / 蛋白質間相互作用解析 |
研究実績の概要 |
難治性血液悪性腫瘍を標的とした抗体治療法の開発について、本年度は難治性血液悪性腫瘍である成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)を標的とし、ATLLを標的とした複数の細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体の取得を試みた。これまでの研究背景として、標的抗原に対して結合できる抗体は取得できていたが、標的細胞に高い親和性で結合できる抗体を取得することが非常に困難であった。今回、免疫抗原のデザインをATLLで発現しているバリアントへと最適化することで、動物免疫とハイブリドーマ法によりATLLに高親和性で結合する抗体の取得に成功した。SPRを用いた速度論と親和性の詳細な解析、熱安定性などの物性評価、フローサイトメトリーや顕微鏡観察による細胞への結合活性を確認し、結晶構造解析などによるエピトープマッピングを試みた。また、得られた抗体に、既に有効性が示されているリンカー付き細胞障害性薬剤を化学修飾し、ATLL細胞株、標的抗原の強制発現細胞株、患者検体を用いた細胞障害活性の評価を行なった。標的抗原陽性細胞において、細胞増殖抑制効果を示すことが明らかになった。 また自己免疫疾患を標的とした抗体治療法の開発については、標的抗原に対するキメラ抗体を用いて、まず細胞障害性薬剤を化学修飾し、細胞内へ取り込まれ細胞増殖抑制効果を示すことを明らかにした。活性が得られたことから、この抗体を用いた薬剤の細胞内デリバリーが可能であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
難治性血液悪性腫瘍に対するADC開発では、これまで取得困難であった、治療標的の細胞表面抗原に対する高親和性のモノクローナル抗体の取得に成功した。また既に有効性が確認されている薬剤を化学修飾することで、この抗体が細胞増殖抑制効果を誘導することが明らかになり、細胞株のみでなく患者検体でも増殖抑制効果を得られる可能性が示唆された。 自己免疫疾患を標的としたADC開発でも、得られている抗体が細胞へ取り込まれ、薬効が得られることが明らかになり、今後の免疫抑制剤へのConjugateへと発展可能なことが示唆された。 両プロジェクト共に、細胞での活性を得られるところまで実験が進み、以上から初年度の進捗は概ね順調に進展していると考えた。
|
今後の研究の推進方策 |
血液悪性腫瘍に対するADC開発では、詳細な抗原の認識機構と生物学的活性についての解析を進めるとともに、共同研究者と協力して患者検体を用いた細胞増殖抑制効果についてのデータ蓄積、種間の交差反応性などの評価を進めるとともに、最終的にはマウスを用いた癌細胞移植モデルを用いた実験へと進めたい。この抗体は単量体と二量体した抗原に対して異なる親和性を持つことが示唆されており、また標的抗原は結晶構造も明らかになっていないため、結晶構造解析を進めると共に、抗体の分子認識と生物学的活性について明らかにしていく。初年度は既存の細胞障害性薬剤を用いたが、現在我々が選抜している候補薬剤についてもリンカー伸長や可溶性改善などに取り組み、ADC化と活性検討についても進めていきたい。 自己免疫疾患を標的とした抗体療法では、抗体を薬剤デリバリーに応用可能なことが示唆されているため、今後はリンパ球機能を制御できる免疫抑制剤をどのように抗体へ修飾していくかについて、化合物の選定を行うと共に、細胞内へ取り込まれた後に切断を受けて活性を持つ構造となるように、化学合成の専門家との共同研究を検討したい。化合物が得られれば、抗体への化学修飾と細胞への活性、リンパ球への生物学的な機能へ与える効果について解析を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の流行と2回の緊急事態宣言により、研究活動が大きく制限され当初の計画よりも研究費用の支出が減少し、出張が制限されていたため旅費も支出が減少した。以上から次年度使用額が生じた。
|