研究課題
がん免疫療法の中で、免疫抑制解除型の免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の開発は一定の成功を収めたものの、その治療効果はまだ一部の症例に限られており十分とは言えない。これまで、遺伝子変異由来のネオアンチゲンに対する免疫応答がICIの効果の鍵を握ることを示唆するデータが報告されてきた。したがって、免疫抑制の解除に加え、ネオアンチゲンをはじめとするがん抗原に対する免疫応答を増強するがんワクチンが開発できれば、さらに治療効果を引き上げられる可能性がある。有効ながんワクチンを実施する上で重要なことは、強い免疫応答を引き起こしうる有望ながん抗原の選定と、ICI、がんワクチン及びその併用治療を含む免疫療法の適応症例の適切な選択にある。本研究の目的は、手術で切除された肺癌検体から、新鮮分離がん細胞の解析、TILの培養、がん細胞株の樹立等を行い、腫瘍反応性T細胞が認識するがん抗原を患者個々のレベルで検討し、将来の肺癌に対する個別化がんワクチン開発に向けた基盤となるデータを取得することである。もう一方で、癌・精巣抗原(cancer-testis antigen:CTA)の一つであるKK-LC-1は肺癌患者の約35%、胃癌の80%、トリプルネガティブ乳癌の50%、子宮頸癌の30%程度で発現している共通抗原と言われている。本研究では特にKK-LC-1注目し、特異的なT細胞受容体(TCR)を同定、取得を試みた。KK-LC-1特異的TCRが取得できれば、KK-LC-1陽性患者に対する遺伝子改変T細胞輸注療法の道が拓ける。
3: やや遅れている
培養TILからのTCR遺伝子導入T細胞による抗原同定が困難であったため、FTDを用いたシングルセル解析(CD8T scRNA/TCR-seq)から腫瘍特異的T細胞と抗原を同定するアプローチに変更した。肺癌検体9例のsingle cell解析を行い、そのうち3例まではT細胞の反応性までをスクリーニングし終えた。T細胞の反応性は、全エクソーム/RNAシーケンスデータからAIを用いて予測されたネオアンチゲンやがん・精巣抗原由来のエピトープを用いて確認された。スクリーニングが終了した3例で学会発表、論文報告を予定している。同アプローチを用いたことでKK-LC-1に対する抗原特異的な反応を示すTCRが複数採取された。これらは既報のTCRとは別のものであったため、今後論文報告を予定している。
論文報告へ向けて、必要な実験や解析を行う。特に遺伝子変異由来のネオアンチゲンと、変異を伴わないペプチド(wild type)との選択性の違いを詳細に検証する。また、実験結果をを反映させて、single cell解析データをさらに進める。
学会発表のための旅費として使用する。論文の校正、投稿費用としても使用する予定である。
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