上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)は、EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌に著効するが、1-2年で耐性を獲得し、再発、再増悪を来す。通常、薬剤耐性の診断には、癌組織生検が必要であり、患者負担を要する。そこで、liquid biopsyへの展開を見据え、薬剤耐性獲得後の腫瘍細胞由来エクソソームから薬効予測バイオマーカーを探索する目的で本研究を行った。令和2年度は、ヒトEGFR遺伝子変異陽性肺がん細胞株(PC9)に対して第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブに耐性を獲得した耐性細胞株(PC9OR)由来のエクソソームが、オシメルチニブ耐性を誘導する機能を有していることを示した。令和3年度は、 PC9OR由来のエクソソームから抽出したmiRNAが、PC9のオシメルチニブ感受性に影響を与えることを明らかにした。さらに、PC9およびPC9ORのエクソソーム由来 miRNAについてマイクロアレイ解析とqPCR解析にて、PC9に比してPC9ORに有意な発現増加を認める6つのmiRNA(miR-18a-5p、miR-20b-5p、miR-130a-3p、miR-378a-3p、miR-378f、miR-424-3p)を同定した。令和4年度(最終年度)は、他のオシメルチニブ耐性株においても有意な発現増加を認めたmiR-130a-3pに着目し、詳細に検討したところ、miR-130a-3pがPC9のオシメルチニブ感受性を減弱させることを明らかにした。そのメカニズムとしてパスウェイ解析からmTORシグナルの関与が示され、mTOR活性を負に制御するがん抑制遺伝子TSC1の発現をmiR-130a-3pが抑制することを明らかとした。なお、臨床検体の解析は、試薬の供給不安により期間内に実施することが出来なかったが、今後検討を継続する予定である。
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