研究課題/領域番号 |
20K16386
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
能勢 直子 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (80642404)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞治療 / 分子イメージング / PET / レポータータンパク / 基質特異性 |
研究実績の概要 |
再生医療の分野で、細胞治療はこれまでの化学的な薬剤投与を中心とした内科的治療の概念を大きく変える革新的な治療法の一つとして期待されているが、細胞治療で投与された細胞の生体内分布を実際に正確にモニタリングできる手法は未だ開発されていない。そこで、本研究では、非侵襲かつ高感度なイメージング技術として臨床でも広く利用されている核医学イメージングを投与後細胞のトラッキングに応用することにより、細胞の投与後体内分布や生存性を明らかにする方法の確立のための基礎実験を実施している。 本研究課題の成果を将来的に細胞治療の最適な治療プロトコルの確立に繋げるため、本研究課題では、具体的に、核医学レポータータンパクの1つであるナトリウム/ヨウ素共輸送体(NIS)の基質特異性を高め、核医学レポーター遺伝子をあらかじめ導入・発現させた細胞の投与後生体内分布を正確かつ経時的にモニタリング可能な新規手法の開発を目指している。 今年度は、NISが取り込む新規F18標識PETトレーサであるF18-tetrafluoroborateの合成技術を確立した。また、NIS遺伝子の遺伝子合成を行い、各遺伝子をプラスミドベクターへ組み込み、幹細胞に野生型NIS遺伝子を発現させたNIS発現細胞株を作成することに成功した。これらの細胞株を動物実験に供する為、現在、安定的に継代している。NIS発現細胞株を用いたin vitro実験では、トレーサ取り込み時間や培地組成、阻害薬の影響などの条件検討を行い、NISの活性評価を行った。また、コントロール実験として、健常動物におけるNISの生理的トレーサ集積を確認するため、健常マウスにT-99m、F18-tetrafluoroborateを投与し、小動物用SPECTおよびPET装置を用いて、生体内での放射性同位元素の分布をイメージングし、定量評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標である、1)F18-tetrafluoroborateの合成法の確立および基本性能の評価、及び、2)NIS遺伝子に関する細胞への遺伝子導入と発現確認、については概ね完了し、加えて、2年目に予定していた3)NIS発現細胞への放射性同位元素標識法の条件検討についても、既に得られた細胞株を用いて一部実験を開始していることから、概ね順調に進展していると判断できる。特に、今年度は新型コロナウイルス感染症予防の観点より、数か月間実験ができない期間が生じたり、様々な書類審査の遅延、使用予定であった海外製造試薬の輸入遅延などにより、予定していた実験計画の変更を迫られることも多々あったものの、より良い方法で研究成果を出せるよう努力し、関係者らとミーティングでの情報収集も進めている。 具体的な研究内容に関しても、新規トレーサの製造の確立、細胞への遺伝子導入、in vitro実験による細胞活性評価も進んでおり、新型コロナウイルス感染症による在宅勤務や手続き・審査遅延による実験開始の遅れなどのやむを得ない遅れを除き、研究自体は計画通りと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、間葉系幹細胞(MSC)などにNIS遺伝子を発現させたNIS発現細胞株を他にも複数作成する予定である。こうして作成した複数のNIS発現細胞株を用いて、I-123, Tc-99mまたは F18-tetrafluoroborateを培地に加え、トレーサとの結合や細胞への取り込みをガンマカウンターにより測定する。 in vitroでの取り込み実験では、取り込み時間や周辺温度、細胞刺激などの至適条件検討を行い、NISの活性、細胞毒性、プローブによる影響などの評価を行うとともに、NISタンパクにおける基質特異性の違いによるトレーサの取り込みの差についても、異なる濃度の阻害薬を添加した条件下にて評価する。 最終的には、NIS発現細胞株をラットへ投与後、I-123, T-99mまたは F18-tetrafluoroborateを投与し、小動物用SPECTおよびPET装置を用いて、生体内での放射性同位元素の分布を経時的に評価する。イメージングで得られたデータは、定量評価を行い、NISタンパクの発現による基質特異性の違いを利用したトレーサ取り込みの差については、NIS遺伝子を導入・発現させた複数の細胞株を動物に投与することにより、その集積をトレーサ毎の生体内分布の違いで評価する。また、特定臓器への生理的集積を抑制するため、異なる濃度の阻害薬を生体へ事前投与した条件下で、評価を行う。撮像後は解剖して臓器を摘出し、各臓器の放射性同位元素の取り込みをガンマカウンターにより測定する。 本研究で、核医学レポーター遺伝子を安定発現させた細胞を投与し追跡する生体内トラッキングシステムを開発することにより、細胞治療の分野だけでなく、全ての再生組織の生体内モニタリングに応用が可能であり、診断~治療までの今後の医療全体に大きく貢献する技術となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症予防の観点より、在宅勤務となり数か月間実験ができない期間が生じた。加えて、学内における様々な書類審査の遅延により、実験の開始許可が遅れた。そのため、当該年度に予定していた動物実験の一部が実施できなかったこと、加えて、当該年度に発注した海外輸入試薬の納品が遅れたため年度内の納品ができず、残額が生じたが、次年度に実施するため、申請通りの当該費用に使用する予定である。
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