食道癌は予後不良な消化器癌の一つであり、化学療法においては白金錯体系抗腫瘍薬であるCisplatinがキードラッグである。しかし治療効果は十分ではなく白金製剤の治療抵抗性には銅輸送体が関与しているとの報告がある。本研究は、蛍光X線分析という光学的アプローチを用いてCisplatinを投与した食道癌組織中の銅の局所的な分布を可視化することで、腫瘍組織内の薬物動態や細胞活性の変化を明らかにし、銅関連輸送体がもたらす治療反応性や耐性獲得機序を解明するために開始された。 本年度もヒト食道癌組織を用いた銅輸送体関連遺伝子の評価を行った。当研究室では、単一細胞レベルでの網羅的な遺伝子発現解析を行うことができるシングルセル解析(scRNA-seq解析)を導入しており、術前化学療法を施行した食道癌サンプル15例程度のシークエンスデータを保有している。scRNA-seq解析を用いて銅流入輸送体関連遺伝子であるCTR1/2を評価したところ、線維芽細胞などの間質細胞よりも骨髄球系細胞において強く発現していることがわかった。骨髄球系細胞をさらに細分化し再評価すると、マクロファージの細胞集団で主に発現していた。CTR1/2の発現レベルを術前化学療法の奏効率がPDとSD/PRの症例に分けて比較したところ、PD群のマクロファージのCTR1/2の発現が低い傾向がみられた。これまで、白金製剤への抵抗性に関しては腫瘍微小環境が関与していると考えられていたが、本解析により、免疫細胞でも特にマクロファージの銅流入輸送体機能が化学療法の抵抗性に関係している可能性が示唆された。
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