悪性神経膠腫は再発時に20-30%の症例にmismatch repair (MMR)遺伝子の変異が認められ、この変異が標準治療薬であるアルキル化剤Temozolomide(TMZ)に対する抵抗性の要因となっている。そこで本研究では、MMR変異TMZ抵抗性神経膠腫細胞株を用いて、TMZ抵抗性を克服するあらたな治療の開発することを目的としている。2020年度から2022年度の研究結果からTMZとPARP阻害剤の併用投与によって、TMZに対する感受性が回復することが判明した。またMicroarray解析により、TMZ・PARP阻害剤治療群ではcellular senescence関連の遺伝子発現に変化が認められ、この感受性の回復に、細胞老化現象が関与している可能性を見出した。 本年度の研究では、樹立したMMR変異TMZ抵抗性細胞において細胞老化について、解析を行った。TMZ、PARP阻害剤併用投与後の細胞では、細胞形態の変化(大型化、扁平化)が生じるとともに、細胞老化の特徴であるβガラクトシダーゼの蓄積が認められた。さらに細胞周期の停止、senescence-associated secretory phenotype(SASP)因子などの、細胞老化のバイオマーカーが発現しており、細胞老化が誘導されていた。TMZ感受性細胞においては、TMZ単剤治療においてこれらの細胞老化誘導が認められたのに対し、MMR変異TMZ抵抗性細胞に対するTMZ単剤治療では、細胞老化はほとんど誘導されなかった。これらの結果より、MMR変異TMZ抵抗性細胞に対するTMZとPARP阻害剤の併用投与による感受性の回復は、細胞老化誘導による増殖抑制作用の回復によるものと考えられた。
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