癌治療において病変の進展範囲を正確に評価することは非常に重要であり、特に口腔癌においては腫瘍の浸潤深度が予後に対する重要な因子とされている。現在一般的に用いられる画像検査では早期口腔癌の検出が困難なこと、金属アーチファクトを完全に除去できないことの理由から浸潤深度の評価が十分にはできていない。そこで本研究では二光子励起顕微鏡を用いた生体イメージングを利用し、口腔癌の可視化と浸潤深度の評価を目的とした。 まず先行研究として、透明化サンプルを使用し蛍光顕微鏡を用いた3次元評価を行うこととした。その理由は、生体試料の深部イメージングを行う上で最大の障害は光の散乱であること,癌細胞集団における増殖マーカーなどのタンパク発現の分布や癌の中心と周囲における転移マーカーの発現の違いなどの前情報を把握する必要があると考えたためである。先行研究では舌癌から頸部リンパ節転移をきたした症例のリンパ節の摘出検体を用い、リンパ節内での癌細胞の増殖マーカーや壊死巣に着目し細胞増殖と細胞死の関連を精査している。 組織の透明化を行うことで屈折率が均一となり3次元観察がしやすくなるが、一方で組織の収縮や蛋白変性が生じるため、組織によって透明化の方法を調整する必要があることがわかった。先行研究ではCUBIC法という尿素とアミノアルコールを主成分とする手法を用いて正常リンパ節および転移リンパ節の透明化を行った。CUBIC法は組織中の主要な吸光物質であるヘムを除去可能であることと多くの蛍光タンパク質の保存性に優れることを特徴とする。ただしサンプルサイズにより脱脂,脱色期間を調整する必要があり、プロトコールの細かな調整が必要であった。透明化が完了したサンプルは、蛍光顕微鏡を用い光学セクショニングとZスタック撮影にて3次元評価を行った。
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