研究実績の概要 |
グルタチオン(GSH)生合成の亢進したがん選択的に細胞障害性を示すことを期待し、モデル薬物としてドキソルビシン(Dox)を選択し、Dox構造中のアミノ糖部分にグルタチオン(GSH)応答開裂基として2-nitrobenzenesulfonyl (Ns)基を修飾することで、GSH応答プロドラッグとなるNs修飾Dox(NS-Dox)を得た。このNs-Doxは、本来Doxが有する蛍光をOFF状態にすることが蛍光スペクトルからわかり、蛍光追跡によりその活性化を評価した。すなわち、緩衝液中でGSH 1, 5 mMまたはGSH 1, 5 mMにグルタチオン-s-トランスフェラーゼ(GST) 0.4 nM共存によりNs基の脱保護とDoxの遊離について557 nmの蛍光強度から評価した。反応8 hrにおいて、GSH 5 mM+GST, GSH 1 mM+GST, GSH 5 mM, GSH 1 mMのDox遊離率はGSH 5 mM+GST>GSH 1 mM+GST>GSH 5 mM>GSH 1 mMの順であり、GSH濃度依存性に加えGSTの触媒機能が活性化に関与することがわかった。さらに生細胞内でのDoxへの変換の評価として、GSH生合成やCD44の発現が高いと報告されているヒト結腸腺癌由来HCT116細胞にNs-Dox添加後の蛍光顕微鏡観察とHPLCによる定量を行ったところ、どちらの結果も、2~6時間目にかけてDoxの遊離が上昇することがわかった。 DoxまたはNs-DoxとDNAの相互作用について、等温滴定型熱量測定(ITC)を用いた結合定数解析から評価した。ITCの結果から、合成により得られたNs-DoxのDNAとの結合定数はDoxと比較して1/200と結合親和性が低く、活性化前の毒性が低いプロドラッグとして機能することが期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ns-Doxについては上述の検討の他に、化学修飾による膜透過性変化に影響されない細胞模倣環境の系として、HCT116細胞の破砕液中でのDox遊離率評価を行った。結果は、8 hr目でDox遊離率50%を越え、一方GSH阻害剤添加では5%、GST阻害剤の添加では20%にまで活性化が抑制された。 表面抗原CD44に対するリガンドであるヒアルロン酸(HA)の、ターゲティング素材および薬物担体としての有用性を検討するにあたり、in vitro細胞内取り込みやin vivo血中濃度推移、標的組織部位への集積を評価する目的で分子量45kDa のHA構造中のカルボキシ基へのアミノフルオレセイン(AF)の修飾を行い、さらにAF-HAへ同反応点に対しPEG化を行った。調製の検討からPEG/AF-HA仕込みmol比依存的PEG化率が直線的に上昇することがわかり、HA1分子あたりPEG 5kDaが3, 5, 9分子修飾されたPEG-AF-HAのin vivoラット静脈内投与後の血中滞留性について評価した。結果はHAにPEGを修飾することでその血中滞留性が向上し、PEG修飾率の増加に伴って血中滞留性も増加することが示された。PEG 修飾による血中滞留性変化の要因として、分子量の増加、分子表面特性(水和層の形成や表面電位など)の変化が考えられる。一方、in vitroがん細胞への取り込みや担癌マウスモデルでの腫瘍集積の検討実施において、AFの蛍光強度の低さが問題点として挙げられたことから、近赤外領域に強い蛍光を有するsulfo-Cy5.5をHAに修飾(Cy-HA)して詳細な検討を進めていくこととした。
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