我々は、等しく抗原刺激を受けたT細胞集団が標的抗原を持つ細胞を認識して傷害する際に、細胞によっては連続的に標的細胞を排除する一方で、動きに乏しく 標的をほとんど傷害しないT細胞も存在することを見出した。これらの集団を区別する要因を明らかにすることができれば遺伝子改変T細胞療法の機能改良や、T 細胞の標的細胞傷害の基礎的なメカニズムに関して新しい知見が得られる可能性がある。そこで本研究では、iPS細胞由来CAR遺伝子導入T細胞(CAR-iPS-T細胞)の特徴を活かし、ツールとして活用すること、またマイクロエンジニアリング技術を組み合わせて独自の細胞ソーティングデバイス(マイクロ流体デバイス)を作製し組み合わせて活用することにより、T細胞を運動機能により選別し、それらの機能に影響を与える因子の探索を行うことを目的としている。最終年度までに下記④の段階まで進むことができた。 ①等しく抗原刺激を受けた活性化T細胞集団において、運動性の高いT細胞と低いT細胞が確認されるが、その集団を選別する系を構築する。②運動性の高いT細胞 と低いT細胞では、標的細胞に対する実際の傷害能力に差があるか評価する。③運動性が高く障害能力が高いT細胞に優位に発現している遺伝子群から、実際に遊走能力や浸潤能力に影響を与え、固形がんにおける、免疫細胞療法の抗腫瘍効果を向上させることができる可能性の高い遺伝子をスクリーニングする。④スクリーニングした遺伝子を実際にT細胞に導入し、in vitroによる機能評価を試みる。 ④の段階において、細胞傷害性を顕微鏡ベースで評価するため、細胞傷害時に免疫細胞から放出される分子に蛍光タンパク質を付加させた配列を設計し、それらの遺伝子をホモで目的の細胞に導入するためのベクターの設計まで到達することができた。
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