研究課題/領域番号 |
20K16455
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
前島 多絵 帝京大学, 薬学部, 助教 (00862583)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 乳房腫瘍 / JADER / 抗精神病薬 / 高プロラクチン血症 / MCF-7細胞 / ブロナンセリン / エストロゲン受容体 |
研究実績の概要 |
本研究は、乳がんの発症や増悪に影響する、あるいは発症予防に寄与する薬物を見出すことを目的としている。2020年度はドパミンD2受容体を介した高プロラクチン血症の副作用から長期投与が乳がんのリスク因子となることが示唆されている抗精神病薬に着目した。抗精神病薬が乳がんの発症や増悪に及ぼす影響を明らかにするため、有害事象自発報告データベースの解析とエストロゲン受容体結合能のin silico予測、および乳がん細胞を用いた細胞増殖能の評価を行った。 有害事象自発報告データベースの解析にはPMDAが公開しているの医薬品副作用データベースであるJADERを用いて、抗精神病薬による高プロラクチン血症と乳がんを含む乳房腫瘍のシグナル検出を行った。Information component (IC)のシグナル検出手法を用いた結果、スルピリド、リスペリドン、パリペリドンで高プロラクチン血症のシグナルが検出されたが、乳房腫瘍のシグナルはいずれの抗精神病薬においても検出されなかった。また、構造から化合物の物理化学的性質を予測することが可能なソフトウェア(ADMET predictor)を用いて、抗精神病薬およびその代謝物に関して、エストロゲン受容体への結合能を予測したところ、ブロナンセリンおよびその代謝物は他の抗精神病薬に比べて結合能が高いことが示唆された。さらに、ヒト乳がん培養細胞(MCF-7細胞)にハロペリドール、パリペリドン、リスペリドン、スルピリド、オランザピン、ブロナンセリンを添加して、細胞増殖への影響を評価したところ、ブロナンセリンがMCF-7細胞の増殖を抑制することが明らかになった。その他の抗精神病薬は細胞増殖促進作用を示さなかった。 これらの結果から、抗精神病薬の使用により乳がんが発症・増悪する可能性は低いと考えられ、ブロナンセリンに乳がんの発症抑制作用があることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビッグデータの解析およびin silico予測から乳がんの発症や増悪に影響をおよぼす可能性のある薬物を抽出した。また、乳がん細胞を用いた実験で、一部の抗精神病薬がMCF-7細胞の増殖に及ぼす影響を確認することができた。これらの研究結果は学会および論文にて発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
抗精神病薬ブロナンセリンがMCF-7細胞の増殖を抑制する作用を有することが明らかになったが、これは臨床用量で想定される薬物血中濃度より高濃度での作用であった。また、2020年度はエストロゲン受容体陽性のMCF-7細胞を用いて、抗精神病薬が乳がん細胞の増殖に及ぼす影響を確認したが、そのメカニズムやエストロゲン受容体陰性の乳がん細胞に対する影響は明らかになっていない。 今後はこれらを明らかにする必要性を検討するとともに、抗精神病薬以外においても同様に乳がんの発症や増悪に影響を及ぼす可能性のある薬物を抽出し、細胞実験等にて検証を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、開催予定であった学会が中止やwed開催となったため、旅費として計上していた分に変更が生じた。 次年度は、請求した助成金と合わせてin silico研究のためのソフトウェア・ライセンス使用料や論文投稿料などの成果発表の費用として使用する予定である。
|