研究実績の概要 |
神経樹状突起へのmRNA輸送とそれに伴う局所翻訳は、シナプス長期増強に必須の制御機構である。しかし、輸送されるmRNAの種類や、それらの翻訳産物の高次脳機能制御に関する知見は限定的である。そこで本研究では、高次脳機能に関与することが既知のRNA結合タンパク質RNG105依存的に樹状突起へ局在化するArf GEF, GAPファミリーmRNA群に着目し、これらmRNAの樹状突起輸送を神経細胞およびマウス脳内で操作し、シナプス長期増強ひいては各種行動様式に与える影響を解析する。これにより、局所翻訳新規候補遺伝子群Arf GEF, GAPファミリーのmRNA輸送と局所翻訳を介した新たな高次脳機能制御機構の解明を目指した。 これまでに1種類のArf GEFについて、細胞体での翻訳には影響を与えず、そのmRNAの樹状突起輸送に不可欠な3’UTR内の領域 (dendritic transport responsible sequence, DTRS) を同定し、DTRSを欠損させたマウスを作出した。このマウスでは、細胞体における翻訳量は維持されたまま、mRNAの樹状突起局在のみが低下した。今年度はこのDTRS欠損マウス由来の神経初代培養細胞を用い、シナプス長期増強の指標であるAMPA受容体細胞表面発現およびスパイン形成への影響を解析した。その結果、前者は野生型と同程度であったが、後者はDTRS欠損マウスで顕著に低下した。これにより、着目しているArf GEFのmRNA樹状突起局在化は、スパイン形成の制御に関与する可能性が示唆された。さらに、行動解析に必要な個体数を現在作出したところであり、今後網羅的行動解析を実施予定である。また、新規翻訳を可視化可能なSun-Tagシステムを用いた解析を行い、着目しているArf GEFのDTRSが樹状突起における新規翻訳に不可欠であることを示した。
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