研究課題/領域番号 |
20K16473
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石川 理絵 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (80776013)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | PTSD / 社会的敗北ストレス / 記憶エングラム / 恐怖記憶 / 社会忌避記憶 / 慢性的不安症状 / 海馬 |
研究実績の概要 |
本研究は社会的敗北ストレス誘導性不安症状に対する社会性忌避記憶痕跡細胞(記憶エングラム)の役割の解明を目的として、社会性忌避記憶エングラムの同定及びその操作がマウスの精神状態に与える影響について解析した。C57BL/6系統の雄マウスを攻撃性の高いICR雄マウス(攻撃マウス)のホームケージに10分間入れることで攻撃を受けさせる社会的敗北ストレスを1日(急性ストレス)あるいは10日間連続して(慢性ストレス)与えた。急性ストレスを受けたマウスでは攻撃マウスを避ける社会忌避記憶が形成されたものの、不安様行動は観察されず、一方で慢性ストレスを受けたマウスでは、社会忌避記憶形成及び慢性的な不安様症状が観察された。これらマウスを用いて急性ストレスまたは慢性ストレス後に活性化する脳領野をc-fos発現を指標とした免疫組織化学染色を用いて解析した結果、急性ストレスを受けたマウスでは扁桃体、腹側被蓋野、視床室傍核などでc-fos発現が観察された。さらに、海馬においては急性または慢性ストレスを受けたマウスの両方でc-fos発現が誘導されることが示され、これら脳領野に社会忌避記憶エングラムが存在する可能性が示唆された。現在、急性ストレス後に活性化した海馬ニューロンをc-fosタグシステムを用いてArchTでラベルすることで、このニューロンの操作が社会忌避記憶に与える影響を解析しており、このニューロンが社会忌避記憶エングラムであることが見出されつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会忌避記憶を制御するエングラム細胞の候補の同定が進んだ。また、このニューロンを操作する実験系が確立され、急性ストレス後に活性化した海馬ニューロンの機能的役割を明らかにしつつあるため、おおむね計画通りに進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、急性ストレス後に活性化する海馬ニューロンを光操作し、このニューロンの機能的解析を進める。また、他の領野に関しても同様の解析を進めることで、社会忌避記憶エングラムを同定する。記憶エングラム同定後はこのニューロンの操作が不安行動異常に与える影響を解析するため、不安行動評価課題中のエングラム操作の影響を観察する。 さらに、急性ストレス後に活性化したニューロンと慢性ストレス処置終了後に活性化したニューロン集団との関係性をc-fosタグシステムまたはリアルタイムイメージングを利用して調べることで社会忌避記憶エングラムが不安様行動に与える影響を解明する。
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