研究実績の概要 |
本研究では、近年「こころの時間」として研究が発展している主観的時間のアルツハイマー病(AD)における障害に注目し、神経基盤の解明および臨床への応用を目指す。具体的には、質問紙により主観的時間とその障害を評価し、統計学的なパス図を用いてそれらの心理過程を明らかにする。 2020年度は、カイロス時間およびその障害を測定する質問紙作成を開始した。先行研究の結果に基づいて項目を策定した質問紙を、主としてアルツハイマー病やその他の外来患者を対象として、配布および回収した。現在、データの解析中である。 また、主観的時間認知の項目と併行して、社会的参照能力を反映すると考えられる二重誤信念課題および抑うつのスクリーニングも行った。それにより、主観的時間認知質問紙の信頼性や妥当性を検証するのみならず、認知症診療に関係発達論の視点を取り入れることを意図している。近年、子供が様々な認知機能を発達させる過程において、関係発達論が重視されている。また、加齢や認知症性疾患により、種々の高次脳機能に変化がみられるが、従来は、記憶力などの個体能力や社会的地位の変化などの環境要因で説明されていた。近年では、AD患者における共同注意の障害(松田ら, 2018) など、関係発達の臨床神経心理学が注目されつつある。 AD診療の臨床では、取り繕いやhead turningといった特徴的な所見が知られている。記憶力など個の能力の低下を、社会的技能で補おうとする(が失敗している)方略がみられる (池田, 2015) 。AD患者には特異的な関係性の認知機能障害が想定され、社会的参照能力を必要とする主観的時間にも、その影響が予想される。そのため、主観的時間認知の質問紙を作成するにあたって、社会的参照能力も測定し、その関連を評価することを予定している。
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