本研究は、神経変性疾患において同一タンパク質が蓄積する疾患群が呈する臨床病理学的多様性を説明する異常型タンパク質の“strain”形成に関与する非タンパク質コファクターを明らかにすることである。本年度は、異常型タウが蓄積するタウオパチー患者脳から抽出した界面活性剤不溶性画分を用いたタウ凝集の培養細胞モデルの構築及び細胞内に蓄積した異常型タウのプリオン様性質の評価を行った。アルツハイマー病、ピック病、進行性核上性麻痺及び大脳皮質基底核変性症の剖検脳から抽出した異常型タウをシードとして3Rタウまたは4Rタウを発現するSH-SY5Y細胞に導入すると、それぞれ疾患特徴的なタウアイソフォームの凝集が誘導された。また異常型タウを導入したSH-SY5Y細胞から抽出した界面活性剤不溶性画分の電子顕微鏡観察を行うと、患者脳由来線維に類似したタウ線維が多数観察された。さらに、細胞内に蓄積した不溶性タウは患者脳由来異常型タウが呈する疾患特徴的な翻訳後修飾やそのシード活性を引き継いでいることが明らかになった。これらの結果から、脳内における“strain”形成はタウオパチーの臨床病理学的多様性に大きく寄与し、疾患特徴的な異常型タウの高次構造はタウ病理の脳内拡大において維持されることが示唆された。 また英国MRC分子生物学研究所との共同研究により、多系統萎縮症(MSA)から抽出したαシヌクレイン線維のコア構造がクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析により原子レベルで明らかにされた。MSA患者脳由来のαシヌクレイン線維は、4種類の異なる折りたたみ構造を呈する2本のプロトフィラメントの組み合わせにより形成され、2本のプロトフィラメント間には非タンパク質性コファクターの存在が示された。この結果は、この非タンパク質コファクターがαシヌクレインの"strain"形成に関与することを強く示唆する。
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