研究実績の概要 |
生後10-20日の幼少期にストレスを受けたマウスでは,情動を司る外側手綱核(Lateral Habenula:LHb)においてParvalbumin(PV)陽性細胞が少なく,成長後の神経細胞活動の反応(Zif268/Egr1陽性細胞)が大きく、不安とうつ様行動を呈した.申請者らは,この研究成果をJ Psychiatry Nerosciにて,今年度に発表した(Nakamura et al., 2021).LHbのPV陽性細胞と神経細胞活動性を示す細胞(Zif268/Egr1陽性神経細胞)の機能はわかっておらず,先行研究で示された変化がどのように行動の変容に関わるかわかっていない.本研究では,LHbのPV陽性神経細胞とストレス刺激後に活動する神経細胞の作動性を同定した.in-situ HCRと免疫染色の多重染色により,LHbのPV陽性神経細胞の70%はグルタミン作動性マーカーのvglut2 陽性であることがわかった.また,GABA合成酵素の gad1は1 %, gad2は3 %が陽性で,神経細胞がGABAを伝達物質として使用するために必要なGABA小胞トランスポーターのvgatは陰性であった.ここから,LHbのPV陽性神経細胞は,多くが興奮性のグルタミン作動性,少数がGABA合成酵素を含む神経細胞として,行動を制御する細胞であると考えられる.「PV陽生神経細胞はGABA作動性で,局所回路を抑制する介在神経細胞である」という大脳皮質における研究結果に基づく定説があったが,それを覆す結果が得られた.LHbのZif268/Egr1陽性神経細胞の50% は興奮性のグルタミン作動性神経細胞で,その他のマーカーは陰性であった.ここから,LHbのZif268/Egr1陽性神経細胞は,興奮性グルタミン作動性として,行動を制御していると考えられる.
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