研究課題/領域番号 |
20K16490
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
堀金 慎一郎 名古屋大学, 環境医学研究所, 講師 (60775906)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 神経発達障害 / 自閉スペクトラム症 / 神経回路病態 / カルシウムシグナリング破綻 / 病態モデルマウス |
研究実績の概要 |
成体期の神経細胞と同様に、発生期の幼若な神経細胞においても、細胞内カルシウム濃度の上昇が繰り返し観察され、細胞内カルシウムシグナリングは神経回路形成に必要な様々な細胞イベントを制御する。我々はこれまでに、L型カルシウムチャネルを介した細胞内へのカルシウム流入が、神経回路形成における重要過程である、神経細胞移動および神経突起伸長を制御することを明らかにしてきた。さらに我々は、自閉スペクトラム症を併発するTimothy症候群患者より同定された、変異型のL型カルシウムチャネルが、神経細胞移動を障害することを見出している。こうした経緯から、我々はTimothy症候群患者に由来する変異型のL型カルシウムチャネルを発現する病態モデルマウスを独自に作出し、多角的な解析を進めている。 本研究では、こうした変異型のL型カルシウムチャネルを発現する自閉スペクトラム症モデルマウスの表現型解析を推進し、行動学的異常および神経回路病態を明らかにする。またさらに同病態モデルマウスへの薬理学的・遺伝学的介入により実験的治療を検討する。 初年度である令和2年度には、同病態モデルマウスの行動学的評価を実施した。自閉スペクトラム症の中核症状である社会性障害や繰り返し行動、他の神経発達障害である学習障害(LD)・注意欠陥多動性障害(ADHD)様行動を含む一連の行動学的評価により、興味深い行動表現型を見出すことができている。さらに同病態モデルマウスと類似した変異型のL型カルシウムチャネルを発現する、他系統の自閉スペクトラム症モデルマウスの表現型解析を完了し論文報告を行った(Horigane et al. FEBS Open Bio 2020)。またさらに、神経回路形成期において、移動中の神経細胞内でのカルシウム変動がL型カルシウムチャネル依存的であることを見出し、論文報告を行っている(Horigane et al. Neurosci Res 2020)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の到達目標であった、独自に作出した自閉スペクトラム症モデルマウスの行動学的評価を完了し、自閉スペクトラム症様行動を含む複数の興味深い表現型を見出している。また本研究と強く関連のある、他の自閉スペクトラム症モデルマウスにおいて、予期し得ない知見を見出し、原著論文による報告を行った。更に本研究課題の中心にあるL型カルシウムチャネルが、神経回路形成期における神経細胞内カルシウム変動に寄与することを見出し、論文報告を行うことができた。 すなわち本研究課題の進捗状況については、当初の目標を達成しており、さらに本研究課題の推進に大きく寄与する新たな独自知見を2報の原著論文にて報告している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、独自に作出した自閉スペクトラム症モデルマウスを対象として、細胞形態・シナプス形成・細胞体配置の異常を検討する。さらに同モデルマウスの神経活動異常を検討することで、自閉スペクトラム症の背景にある神経回路病態を詳細に明らかにする。さらに同モデルマウスへの遺伝学的・薬理学的介入を実施し、自閉スペクトラム症様行動の回復を評価することで、実験的治療の可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた、病態モデルマウスの神経回路病態解明において、一部の実験が遅れたため次年度使用額が生じた。次年度は、次年度使用額と翌年度分として請求した助成金を合わせ、病態モデルマウスの神経回路病態解明および治療的介入の検討を目的とした実験を推進するため、物品費等として使用する。
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