研究課題
自閉スペクトラム症は人口の約1%が発症する発達障害であり、社会性の障害や固執・繰り返し行動を主な特徴とする。自閉スペクトラム症は生後初期からその症状が認められ、胎生・発達期にかけた神経回路形成の破綻が発症原因の一つと考えられている。しかしその一方で、神経回路の形成過程や出来上がった神経回路の機能にどのような異常があるのかという「神経回路病態」について多くが未解明であり、病態理解を基礎とした合理的な治療法の開発が困難な状況にある。我々はこれまでの先行研究において、自閉スペクトラム症を併発するTimothy症候群患者より同定された、変異型のL型カルシウムチャネルが、発生期における重要な回路形成イベントである神経細胞移動を障害することを見出している。こうした独自知見を根拠として、我々はTimothy症候群患者に由来する変異型のL型カルシウムチャネルを発現する病態モデルマウスを作出し、多角的な解析を進めている。昨年度にあたる令和2年度では、同モデルマウスに対し一連の行動学的解析を実施し、自閉スペクトラム症の中核症状である社会性障害や繰り返し行動様の行動表現型を見出している。令和3年度では、同モデルマウスに対し組織学的検討を行い、自閉スペクトラム症との関連が知られる前頭全皮質において、神経細胞数の減少を見出した。さらに、同モデルマウスから得た初代培養神経細胞に対しカルシウムイメージングを行い、細胞内カルシウム動態の異常を見出した。本年度に得られたこれら2つの知見は、自閉スペクトラム症の背景にある神経回路病態の一端を明らかにしたものと考えられる。また本年度はさらに、生後0日齢の同モデルマウスに対しウイルスベクター(PHP.eB)による介入操作法を確立し、行動学的評価による実験的治療の検討に着手している。
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Translational psychiatry
巻: 12(1) ページ: -
10.1038/s41398-022-01851-y