研究課題/領域番号 |
20K16499
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
佐知 望美 大分大学, 医学部, 技術専門職員 (90777468)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ケモカイン / 多発性硬化症 / ゲノム編集マウス / 病態モデルマウス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、多発性硬化症におけるケモカインCCL20とCCL9の生理的役割を解明することである。 これまで、血液脳関門を形成するアストロサイトがRANK受容体の刺激を受けるとCCL20を産生することが報告されている。そこで、まず独自にアストロサイトをRANKリガンドで刺激し、それによって誘導される遺伝子群をマイクロアレイによって網羅的に解析した。その結果、CCL20に加えて新たにCCL9の遺伝子発現が上昇することを見出した。 そこで遺伝子欠損マウスを用いた多発性硬化症の病態モデルにおけるCCL20, CCL9の生理的役割を明らかにするため、C57BL/6系統マウスの受精卵にCRISPR/Cas9システムを用いてゲノム編集を行い、CCL20欠損マウスとCCL9欠損マウスの作出を試みた。得られた産仔のシーケンス解析により、それぞれの遺伝子にフレームシフト変異が導入されたことを確認した。その後の交配によりCCL20欠損マウスではホモ接合体が得られELISA法によりCCL20タンパク質の消失が認められた。一方、CCL9欠損マウスの作製については、現在ホモ接合体を増やすために交配を進めている。さらに、CCL20の受容体であるCCR6、CCL9の受容体であるCCR1についてもCRISPR/Cas9システムを用いてゲノム編集を行い、フレームシフト変異が確認され、現在ホモ接合体作製のための交配を進めている。さらに、RANK受容体からのシグナル伝達を担うTRAF6をアストロサイト特異的に欠損するGFAP-Cre/TRAF6 Floxマウスを作製した。この変異マウスのEAEの病態が抑制されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では、血液脳関門のアストロサイトを培養し、この細胞に発現するRANK受容体を刺激することでケモカインCCL20とCCL9の遺伝子発現が上昇することをマイクロアレイ法により見出した。また、多発性硬化症におけるCCL20やCCL9の生理的役割を明らかにするために、CRISPR/Cas9システムを用いてC57BL/6系統の遺伝的背景を持つ、CCL20欠損マウスとCCL9欠損マウスの作製を行い、シークエンス解析によりそれぞれの遺伝子にフレームシフト変異を確認した。さらに、CCL20欠損マウスのホモ接合体が得られELISA法によりCCL20タンパク質の消失が認められた。また、ケモカイン受容体CCR6及びCCR1、シグナル伝達分子TRAF6の欠損マウスの作製も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質(MOG)のペプチドをCCL20欠損マウスへ免疫してEAEを誘導し、経時的な病態スコアや体重変化を野生型マウスやCCR6欠損マウスのものと比較する。さらに、脳サンプルを用いたHE染色、LFB染色にて中枢神経系における炎症細胞浸潤および脱髄の程度を観察する。加えて、脳サンプルを用いてTh17細胞や制御性T細胞およびB細胞の浸潤をフローサイトメトリー法にて定量する。また、CCL9欠損マウスのホモ接合体を得て、ELISA法やウェスタンブロット法によるタンパク質レベルの欠損を確認する。CCL9の欠損が確認できたら、まず定常状態のリンパ組織におけるリンパ球の動態を明らかにし、続いて、EAEを誘導し、経時的な病態スコアや体重変化を野生型マウスやCCR1欠損マウスのものと比較する。また、CCL20欠損マウスと同様に病理学的解析や細胞免疫学的解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
CRISPR/Cas9システムを用いたケモカイン及びケモカインレセプター欠損マウスとの作製が当初の計画より順調に進んだ結果、マウス作製費を削減することができた。当該助成金は請求した助成金と合わせ、主に消耗品および実験動物飼育管理費等として次年度に使用する予定である。
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