研究課題/領域番号 |
20K16502
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
馬島 恭子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 訪問研究員 (30812440)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アストログリア / ニューロン / ヒトiPS細胞 / パーキンソン病 / 抗酸化ストレス / Keap1/Nrf2システム / ヘスペレチン |
研究実績の概要 |
研究代表者は、これまで主としてげっ歯類(ラットおよびマウス)の初代培養細胞を用いて、アストログリアがドパミンに暴露されることで、Keap1/Narf2システムを介して酸化ストレスを減少させ、ニューロンの障害を保護する可能性があることを検証し、報告した。 令和2年度には、ヒト(健常者)iPS細胞由来のアストログリアと脊髄運動ニューロンを用いて、これまで報告したげっ歯類のアストログリアとニューロンの特性がヒト由来iPS細胞で再現できるかについて基礎データの収集を行った。 この結果、ヒト(健常者)iPS細胞由来のアストログリアとニューロンのグルコース代謝には明らかな差があり、アストログリアでは解糖系活性が高く、ミトコンドリアによる酸化的代謝は低く抑えられていた。一方、ニューロンにおいては、アストログリアより酸化的代謝活性は約2倍高く、その結果としてペントースリン酸経路(PPP)へのfluxは、アストログリアにおいてニューロンの2~3倍程度高いことを確認した。これらはこれまでげっ歯類で得た結果と同様であり、ヒトとげっ歯類に共通する特性であることが確認された。すなわち、アストログリアの抗酸化ストレス機能は、ヒトにおいてもげっ歯類と同様であり、これによりニューロンの障害が保護されている可能性が示唆された。 当初はげっ歯類での検証からまず行う予定であったが、幸運にもヒトiPS細胞由来での検証から開始することが可能となった。当初の計画とは異なるが、ヒトにおけるアストログリア関連病態への応用を最終目的としているため、非常に有意義な結果を得ることができた。 さらにパーキンソン病と同じく神経変性疾患であるALS患者のiPS細胞由来のアストログリアとニューロンを用いて同様の検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト(健常者)iPS細胞由来のアストログリアと脊髄運動ニューロン、またパーキンソン病と同じく神経変性疾患であるALS患者のiPS細胞由来のニューロンとアストログリアを用いて、グルコース代謝および抗酸化ストレス作用に基づく細胞保護的機能であるPPPを実測した。上記の通り、ヒト(健常者)iPS細胞由来のアストログリアとニューロンにおいては、これまでげっ歯類で行ってきたデータと同様の結果を得ることができた。 令和2年度に予定していた、げっ歯類の初代培養細胞を用いたLPS障害ニューロンにとアストログリアの共培養、およびhesperetin添加ニューロンとアストログリアの共培養でのニューロンの障害の程度の差を検証する研究、またLPSを用いたPDモデルラット作成は遅れている。これは予期せぬ新型コロナウイルス感染症のため研究計画の一部を変更せざるを得なかったためである。 しかし幸いヒト健常者およびALS患者由来のiPS細胞は比較的安定した供給を得ることができた。使用する細胞は異なるものの、次年度の研究に向けて有意義な検証結果を得ることができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者の異動と新型コロナウイルス感染症により、勤務先である他病院から研究機関への出入りを控えざるを得ない期間が生じたことなどから、研究計画の一部を変更せざるを得なかった。 しかし当初予定していたげっ歯類の初代培養細胞の代わりに、ヒトiPS細胞による検証を中心として、次年度からの研究計画を推進していく目途がついた。今後はこれまでの検証結果を踏まえて、ドパミン暴露時の神経保護作用におけるhesperetinの効果についての検証を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は研究代表者の異動および新型コロナウイルス感染症により、他病院から研究機関への出入りを控えざるを得ない期間が生じたことなどから、消耗品の発注が遅れ、また研究計画の修正が必要となった。令和3年度においては、遅れを取り戻すべく取り組んでいくため、次年度使用も必要となってくる。
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