研究代表者は、これまで主としてげっ歯類(ラットおよびマウス)の初代培養細胞を用いて、アストログリアがドパミンに暴露されることで、Keap1/Narf2システムを介して酸化ストレスを減少させ、ニューロンの障害を保護する可能性があることを検証し、報告した。 令和2年度および3年度には、ヒト(健常者)iPS細胞由来のアストログリアと脊髄運動ニューロンを用いて、これまで報告したげっ歯類のアストログリアとニューロンの特性がヒト由来iPS細胞で再現できるかについて基礎データの収集を行った。この結果、ヒト(健常者)iPS細胞由来のアストログリアとニューロンのグルコース代謝には明らかな差があり、アストログリアでは解糖系活性が高く、ミトコンドリアによる酸化的代謝は低く抑えられていた。一方、ニューロンにおいては、アストログリアより酸化的代謝活性は約2倍高く、その結果としてペントースリン酸経路へのfluxは、アストログリアにおいてニューロンの2~3倍程度高いことを確認した。これらはこれまでげっ歯類で得た結果と同様であり、ヒトとげっ歯類に共通する特性であることが確認された。すなわち、アストログリアの抗酸化ストレス機能は、ヒトにおいてもげっ歯類と同様であり、これによりニューロンの障害が保護されている可能性が示唆された。 当初はげっ歯類での検証からまず行う予定であったが、幸運にもヒトiPS細胞由来での検証から開始することが可能となった。当初の計画とは異なるが、ヒトにおけるアストログリア関連病態への応用を最終目的としているため、非常に有意義な結果を得ることができた。 しかし民間病院への異動や新型コロナウイルス感染症流行により研究時間時間確保が困難となったため、廃止申請を行った。
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