研究課題/領域番号 |
20K16504
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
池田 彩 順天堂大学, 大学院医学研究科, 助教 (70867796)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | CHCHD2 / CHCHD10 / ミトコンドリア / 筋萎縮性側索硬化症 |
研究実績の概要 |
CHCHD2とCHCHD10は、それぞれ筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic lateral sclerosis; ALS)とParkinson's disease (PD)という2つの異なる神経難病の原因遺伝子として同定されている。我々は「CHCHD2もまたALSの原因遺伝子になりうる」という仮説をたて、ALS患者945名の変異解析を行い、2つの新規レアバリアント (c.-8T>G、およびc.41C>T: p.P14L)を同定した。新規レアバリアントをもつALS患者2名では、核タンパク質TDP-43の蓄積が脊髄運動神経と大脳皮質一次運動野で認められた。これは典型的なALS病理である。さらに、これらバリアントを有するALS患者脊髄運動神経で、CHCHD2がミトコンドリアから細胞質へ局在変化する病理像を認めた。cDNAとして解析可能なCHCHD2 P14Lバリアントについては、ショウジョウバエでの発現により、ミトコンドリア変性・神経変性を示し、ALS病因性変異である可能性が強く示唆された。 本研究では、ミトコンドリアタンパク質の異なる変異が、ALSおよびPDの発症に繋がる分子病態機序を解明することを目的とする。具体的には、ALSにリンクすると考えられるCHCHD2 P14LとPDにリンクするCHCHD2 T61I変異体とを用いて、ヒト神経系細胞とゲノム編集で変異を導入したノックインマウスを用いて、タンパク質機能、ミトコンドリア・神経機能におよぼす影響を比較する。これまで、ALSとPDで原因遺伝子の重複は見つかっておらず、CHCHD2が初めての例となる可能性がある。本研究で目指す、それぞれの変異がALS、PDを発症するメカニズムの解明は、ミトコンドリアを標的としたALS、PD共通の新規分子標的療法の開発へと繋がると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①CHCHD2変異体のミトコンドリア局在の解析:CHCHD2の局在を確認するため、患者脳のパラフィン切片を用いてCHCHD2とATP5A (ミトコンドリアタンパク質)の蛍光二重染色を施行したところ、CHCHD2 ALS変異陽性患者ではCHCHD2の局在がミトコンドリアから外れて細胞質に移行する傾向を認めた。一方、CHCHD2 PD変異陽性患者ではCHCHD2はミトコンドリアに留まり、明らかな局在の変化は認めなかった。 ②細胞内Ca2+動態の解析:ショウジョウバエ中枢脳の神経細胞でCa2+イメージングを実施したところ、ALS変異体を発現するショウジョウバエでは、電気刺激後のミトコンドリア内Ca2+流入の減少と細胞質内Ca2+濃度の異常な上昇を認めた。一方PD変異ハエでは、細胞質内Ca2+濃度の上昇は野生型と同程度であった。 ③モデル細胞を用いた病的タンパク質の凝集性の解析:ALS変異体、PD変異体を導入したモデル細胞を用いて、各変異体でのCHCHD2、CHCHD10、TDP-43、α-Synucleinのタンパク質の発現定量を行った。ALS KO細胞でTDP-43の不溶性分画での凝集を認めた。 ④マウスモデルの行動解析、病理学的評価、遺伝子発現解析:ノックインマウスはすでに作製されており、行動解析を進行中である。 上記の結果から、計画はおおむね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
モデル細胞を用いて、ミトコンドリア機能評価 (ATP合成能、酸素消費速度、ミトコンドリア膜電位計測、活性酸素種の測定など) を実施する。またCa2+モニター蛍光タンパク質 (ミトコンドリア局在型と細胞質局在型の2種類)を用いてミトコンドリア、細胞質内へのCa2+流入量の評価をイメージングで行う。TDP-43を強発現したモデル細胞を、細胞内Ca2+を高める作用のあるタプシガルギンやイオノマイシンで処理し、TDP-43凝集体の形成の有無、細胞死感受性を観察する。このアッセイ系にて、各変異体で差異があるかを評価する。 CHCHD2のALS変異体・PD変異体のノックインマウスを用いて、行動・運動機能解析 (握力測定、Rotarod、ポールテスト)や病理解析 (脊髄や中脳におけるTDP-43、α-Synucleinの蓄積の有無の観察など)を実施する。表現型解析後、行動や運動機能に異常が見られる直前のタイミングにて、神経細胞の遺伝子発現の変化から、2変異体が神経におよぼす病態を分子レベルで探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬やゲルなどはすでに研究室にある材料で自ら作製することで、消耗品にかかる費用を削減することができた。次年度に行うマウスの行動解析や機能解析で新たに機材の購入が必要になる可能性があり、そちらへの使用を検討している。
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