本研究課題は、MAO-BノックアウトマウスおよびMAO-B阻害薬処理を行った培養細胞を用いて、MAO-B阻害によるαシヌクレインの神経毒性・凝集体形成に対する緩和効果と作用機序を明らかにすることを目的としている。MAO-B阻害薬による神経保護効果を実験的に検証し、MAO-B発現を標的としたパーキンソン病治療法を開拓することを目指している。これまで、MAO-B阻害薬で細胞を処理すると、αシヌクレインの細胞外分泌が、細胞内カルシウム濃度依存性に亢進すること、小胞分泌を介して行われることを見出した。パーキンソン病の進展機序として、αシヌクレインのプリオン様伝播が考えられている。このプリオン様伝播は、細胞外へのαシヌクレイン凝集物の分泌、神経細胞内への取り込み、取り込んだ細胞内での正常αシヌクレインの凝集化といったサイクルから構成される。しかし、αシヌクレインの細胞外分泌を調節する機構は、ほとんど不明である。2022年度は、MAO-B阻害によるαシヌクレイン細胞外分泌の調節機構について検討した。その結果、1)マウス大脳皮質初代神経細胞において、MAO-B阻害薬セレギリン処理はαシヌクレインの細胞外分泌を亢進させること、2)マウス大脳皮質の初代培養をAra-C処理してグリア細胞を減らしても、ウエスタンブロッティングでMAO-Bの発現が認められること、3)αシヌクレインの細胞外分泌は、オートファジーを誘導するラパマイシン処理によって亢進すること、4)MAO-B阻害薬セレギリンは、LC3-IIの細胞内発現の増加およびp52の細胞内発現を抑制し、オートファジーを刺激することを見出した。これらの所見は、αシヌクレインの細胞外分泌経路としてオートファジーを介した経路があり、MAO-B阻害は神経細胞においてオートファジーを刺激してαシヌクレインの細胞外分泌を促進させる可能性を示唆している。
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