研究課題
令和2年度の研究実績概要は以下の通りである。①平成24年に頭部MRI検査を実施した65歳以上の福岡県久山町の地域高齢住民1189名を対象に、糖尿病や血糖関連指標と脳の部位別(前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉、島、帯状回、小脳)の容積との関連を検討した。交絡因子を調整した多変量解析の結果、非糖尿病者と比べ糖尿病者では、前頭葉、側頭葉、島、小脳の灰白質容積が有意に小さかった。また、糖尿病の罹病期間が長くなるとともに、これらの灰白質容積は小さくなり、さらに糖尿病を老年期に診断された群と比べて中年期に診断された群ではこれらの領域の灰白質がより萎縮していた。75g経口糖負荷試験を実施した対象者を用いた検討では、糖負荷2時間後の血糖値上昇は側頭葉、島の灰白質萎縮と有意に関連し、空腹時血糖値の上昇は側頭葉の灰白質萎縮との間にのみ有意な関連を認めた。②さらに頭部MRIの灰白質画像を用いて画像解析ソフトウェアVBM8により解剖学的標準化、信号値変換、平滑化を行い、voxel based morphometry(VBM)解析用のデータセットを整備した。VBM解析の結果、非糖尿病者と比べ糖尿病者では、右上・中側頭回、左上・下側頭回、右中前頭回、両側の視床、右尾状核、右小脳半球の灰白質容積がそれぞれ有意に減少していた。血糖レベル別にみると、空腹時血糖値の上昇は右中側頭回、両側の下側頭回の灰白質萎縮と有意に関連したが、糖負荷2時間後の血糖値の上昇は、これらの部位に加えて、両側の上・中・下側頭回、両側の側頭極、両側の島、左頭頂弁蓋部、右下前頭弁蓋部、右視床の灰白質萎縮と有意に関連した。①②の結果から、長期にわたる糖尿病は脳の複数の部位の萎縮の危険因子であることが示唆された。また、食後高血糖の指標である糖負荷後血糖値の上昇は、空腹時血糖値の上昇と比べてより広範な脳領域の萎縮と関連することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、平成24年に久山町高齢者を対象に撮像した頭部MRI検査のデータを用いて糖尿病や血糖関連指標と脳の部位別(前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉、島、帯状回、小脳など)の容積との関連の検討やVBMの手法を用いて糖尿病や血糖関連指標と関連した脳萎縮パターンの検討を行うことができた。
令和3年度は、平成29年に久山町高齢者を対象に撮像した頭部MRI検査のデータ整備を継続する。さらに、平成24年と平成29年の2回にわたり頭部MRIを撮像した住民を対象に、脳の部位別萎縮の経時的変化における糖尿病の影響について検討する。
頭部MRIデータの画像の前処理やデータ解析を自分とボランティアの大学院生を中心に実施したため、人件費を節約できた。また、新型コロナウイルスの影響により、参加を予定していた学会が中止や延期となった。繰越しとなった研究費は、令和3年度に延期となった学会や脳画像講習の旅費として使用する予定である。
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Circulation Journal
巻: 84 ページ: 935-942
10.1253/circj.CJ-19-1069
The Journals of Gerontology, Series B: Psychological Sciences and Social Sciences
巻: - ページ: -
10.1093/geronb/gbaa196